ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 逃亡中事件簿 アンケート中(オリキャラ募集中)追加質問有り ( No.132 )
- 日時: 2010/03/19 20:10
- 名前: nanasi (ID: lerfPl9x)
二章 その四拾伍 前に進むよ
「助さん……なぜ?」
私はその何かを飛ばした人物、助木太郎、通称助さんに向かって言う。
「ああ、お嬢様。覚えていたのですね、私のこと」
助さんはにっこりと昔と同じように優しく笑う。
「えっと、お嬢様って?」
ミィちゃんは私に向かって不思議そうに聞く。あれ? 知っているのではなかったっけ?
って、そうか。話してなかった。
「お嬢様は昔の話。いまはただの八月。それよりなぜ、私に向かって刃をむけた? 」
私は冷静に静かに助さんに聞いた。ゆっくりと、にらみつけながら。そう、こういうときは冷静に対応しなきゃ。
「もうお友達ができたのですね、お嬢様。金の力なんてもう必要ないのですね」
優しそうな笑顔で今度は、格木太朗、通称格さんが答えた。
「茶化さないで! 答えて! なぜ刃をむけたの? 」
私は冷静にいようと思っていたことも忘れ怒鳴る。
「ああ、お怒りになりましたか、お嬢様。否、ただの小娘。あの屋敷を離れたお嬢様はもう私たちの仲間でないのです」
助さんはさっきと同じ笑顔で言った。
仲間ではない?
私は多分そんなことを言われるかもと覚悟をしていた。想像もしていた。
だけど、こんなショックを受けるとは思ってはいなかった。
そう、私は
ショックだった。
捨てたはずの者に仲間ではないと言われ、ショックだった。否、私はまだ捨てきれていなかった。
格さんは続きを言う。
「あなたは、覚悟をして出て行きました。私たち仲間から追っかけられる覚悟を。もう戻れない覚悟を。だけど、
私たちは困ります。あなたが屋敷にいないと困ります。それは、主人からの命令であり私たちの思いでもあります」
格さんは一言一言丁寧に言う。
一言一言が胸に響く。
私は……なんでこんなことになっているのだろう?なぜ、あの家を出てきたのか……。
決意が揺らぐ。あの日の決意が揺らぐ。
「八月?」
ミィちゃんは心配そうに言いながら私の顔を覗き込む。その姿を見て泣きたくなる。胸が痛くなる。
私って弱いのかな?
助さんは格さんの言葉に続ける。
「私たちは今、あなたの決意を聞きにここに来ました。
あなたがもし、屋敷に戻ることを選んだ時は改めて歓迎しましょう」
昔と同じあの優しそうな笑顔を私に向けた。
罪を犯してしまった私を歓迎してくれる。嗚呼、あまりにも優しすぎる。
なんかもう本当に、泣きそうになる。その優しさに? 思い出に? どちらも違う気がする。
とにかく、涙がこぼれおちそう。
「八月……なんか意味よくわからないけど、私は言うよ?ずっと友達だよ」
ミィちゃんは優しく言ってくれた。
ずっと友達。
その言葉がこんなに心に響いたことがあったかな? 昔。
……私はきめる。もう一度決意する。手で目をこする。涙は自然と止まった。
「ごめんなさい、助さん格さん。私、屋敷に戻らない。私は前に進む」
強く、しっかりと言う。二人を見てしっかりと。
「ミィちゃん、行こう。早く」
私はミィちゃんに向かって笑いかけた。
「うん」
ミィちゃんの手を握る。強く。もう離れられないように……。