ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 少年と天狐の妖怪物語 ( No.1 )
- 日時: 2010/02/20 15:09
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
序章/開巻劈頭-かいかんへきとう-
「琴坂秋叉(ことざか あきさ)。宜しく」
その少女は、とある高校の一年二組の転入生として現れた。
高校生には見えない小柄な体格、太股の中間まである亜麻色の流れるような髪、赤い琥珀色の瞳、肌は純白と言っていい程つややか。人を寄せ付けないどこか不思議な雰囲気を持つ少女は、まさに『美少女』という言葉が相応しかった。
人形の様な整いすぎた顔立ちの少女にクラスメイト達が釘付けになっている中、少年は一人だけ興味無さそうに少女を見る。
少年の名を泉井刀哉(いずみい とうや)。
「転入生……か」
窓際の一番後ろの席から、刀哉はつまらなさそうに呟く。退屈な授業で教師の説明が子守唄に聞こえるように、窓の隙間から差し込む暖かな太陽の光が刀哉の眠気を誘う。
刀哉は別に転入生に興味が無いわけではない。只、美少女が身近にいたところで刀哉の手の届く存在ではない。手の届かない美少女に焦がれたところで虚しいだけなので、刀哉は最初からスルーしておく事にしているのだ。
こっくり、こっくりと後少しで刀哉が寝てしまいそうな事で、転入生の少女がこちらに近づいてくる。おそらく「皆仲良くやれよ」とか「お前の席はあそこだ」とかいうお決まりの台詞を教師が言い終えたのだろう。そういえば刀哉の後ろは空席なのだ。
転入生が、しかも美少女が自分の後ろの席になるなど予想外の出来事だったが、刀哉は特に驚きもしなかった。
退屈そうに溜め息をこぼす刀哉に、前の席の男子が刀哉の机を叩く。刀哉の事を呼んでるらしい。
「なあなあ泉井、美少女転入生が近くの席だなんてラッキーじゃね? これってフラグか? 俺にフラグを踏めと言っているのか!?」
「てめーはラノベの読みすぎだ桑原(くわはら)! 妄想と現実の区別をつけろ、此処は現実世界だ目を覚ませ桑原」
「よし、琴坂を何としても俺の手に……!」
「駄目だこいつ……」
何だか少し怪しい話をひそひそと怪しく話す前後の男子は、周りから見たらちょっと怪しかったりした。周りからの少し引いた視線に気づくと、未だに妄想を続ける桑原を放って置き前に向き直る。
刀哉はまた一つ溜め息をこぼす。
「……ん?」
誰かの視線を感じ、刀哉は後ろを振り返った。
琴坂秋叉が、こちらを不思議そうに見ていたのだ。
(……おい、もしかして俺引かれてるのか? ああくそ、桑原の奴……)
引かれたくなければ前の男子の危ない話をスルーすればいいいだけの話なのだが、それに気づかない刀哉は哀れである。
キーンコーンカーンコーンと、朝学活終了のチャイムが鳴り響き、担任は他クラスの授業をしに教室を出る。
そして、泉井刀哉の日常は始まるのだ。いつも通りの、何の変哲も無い日常が。
たった一人の少女に、その日常が壊されるとも知らずに——。