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Re: 少年と天狐の妖怪物語 ( No.3 )
日時: 2010/02/21 19:30
名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)

第二巻〆

「じゃーな泉井、また明日」

 桑原は何か用事があるらしく、ホームルーム終了後刀哉は一人で帰宅となった。
 一人で黙々と下校する刀哉。だが脳裏には一人の少女が浮かんでいた。
 転入生、琴坂秋叉。
 亜麻色という不思議な色合いの髪に、赤い琥珀色の瞳という不思議な容姿が印象に残っているのもある。だが、それ以外にもう一つ。
 (何で琴坂は夏休み直前なんかに転入してきたんだ……?)
 そう、今日は七月十九日。明後日から夏休みなわけである。何故そんな長い休みギリギリの時期に転入してきたのだろう? 夏休み終了後に転入してきた方が、色々とキリがいいのでは……。
 (まあ琴坂には琴坂の事情があるんだろうな)

 ***

 泉井刀哉の通う高校より少し離れた距離に、気品漂う和風系の屋敷がある事は結構有名である。
 その屋敷の約三メートルほどある門から、一人の小柄な少女が入っていく。少女の格好は赤茶色のブレザーに灰色のプリーツスカートと、ごく普通の学生の制服。それに亜麻色の髪に赤い琥珀色の目を持つ、人形の様に整いすぎた顔立ち。——琴坂秋叉だ。
 当たり前に屋敷に入っていくところから、琴坂秋叉はこの家の人間なのだろう。琴坂秋叉は広い玄関に入り、ローファーを脱ごうとする。が、ローファーを履き慣れていないのか、思うようにローファーを脱げない。
 悪戦苦闘している秋叉の元に、秋叉より少し背の高いくらいの一人の少女がやってくる。腰まである銀色の髪に金色の目、雪を思わせる純白の着物と、此方も秋叉と同じ少々変わった容姿の少女だ。

「秋叉様、大丈夫ですか? ……むっ、やはり扱いにくいですね……。この『ローファー』とやらは」
「悪いの、更紗(さらさ)。それにしてもこの靴は妾には合わん、履きづらい事この上ないぞ」

 同じく悪戦苦闘する銀髪少女——更紗に対し、秋叉はローファーをむすっと睨みながら礼を言う。
 秋叉が別人なわけでもない。声も、顔立ちも、全てが今日転入してきた“琴坂秋叉”だ。
 だが、違った。口調が別人のようにまったく違うのだ。まるで外の世界、つまり“表”では“裏”の自分がバレないよう、別の自分を繕っているように。
 ようやくvsローファー戦が終わると、秋叉は銀髪少女更紗を連れ廊下を移動する。そしてやけに広い茶の間につく。——まるで家族以外にも、まだ誰か、しかも沢山の誰かがこの家に住んでいるかのような広さ。
 秋叉はがらりと扉を横に引く。

「——皆の者、待たせたな」

 秋叉は何十人以上の自分の“部下”に対し、そう告げた。