ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 少年と天狐の妖怪物語 ( No.9 )
- 日時: 2010/02/21 20:32
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
第三巻〆
「やっべ、醤油切れてるじゃねえか……」
夏と言えども時刻は既に午後七時近く。夕空は夜の暗さに飲まれつつある今の時間帯。泉井刀哉は色々事情があり一人暮らしだ。という事は、晩御飯の準備も自分でする事を意味している。最初は料理にうろたえていた刀哉だが、やっていくうちにコツを掴み今ではすっかり料理が趣味の一つである。
そんな刀哉は台所で晩御飯の準備中に、刀哉は醤油がきれている事に気づく。醤油とは一体何を作っているといえば——お雑煮だ。雑煮など夏に食べるものではないが、何故かそんなものをたまに食いたくなる、それが泉井刀哉だ。(因みに本人はこの特性をまったく気にしない)
餅など準備は殆ど出来ており、あとは醤油などで汁の味付けをするくらいだ。ここまで作っておいて今更別のものを作るというのも、何だが勿体無い気がした。
「仕方ねえ、買いに行くか」
ガスの火を止め階段を駆け上がり、自分の部屋から鍵と財布を取り出し乱暴にエコバックに投げ込む。そしてドタドタと忙しく階段を駆け下りると、勢いよくドアを開け玄関を飛び出す。
ふと上を見上げると、何だか周りが暗くなっている気がした。まあ空が暗くなってきているのだし、それも当たり前か——。そう結論付け近くのスーパーへと走り出す。
だが何の縁なのか、向かい側から一人の少女が歩いて来るのが見えた。亜麻色の髪に赤い琥珀色の目、それに自分の通っている高校の制服を着ている、高校生には見えない小柄な美少女——思い当たるのは一人しかいない、琴坂秋叉だ。
「……」
「よ、よお琴坂。お前も買い物か?」
「別に」
何とか話しかけるも、冷たく一瞥。刀哉は感じた、こいつ苦手だ。
どこか気まずい空気が流れる中、苦笑いしている刀哉に秋叉がぽつり。
「……哉」
「は?」
「泉井、刀哉……だっけ」
「はあ、まあ、そうだけど」
何時知ったのかは知らないが、名前を覚えていてくれた事に刀哉はどこか嬉しさを感じる。しかし刀哉とは反対に、秋叉は難しい表情をしている。
「刀哉」
「おっ、おおう!?」
いきなり下の名前で呼ばれ刀哉は戸惑う。秋叉はそんな刀哉の様子を気にする事なく、
「今すぐ家に帰れ」
「……は?」
問われている意味が分からない、冗談ではなく本当に心の底から。何故出逢って間もない少女にこのような事を言われなくてはならないのだろう?
だが刀哉は秋叉に対し苛立ちを覚える事はなかった。発言者である秋叉の顔には、刀哉に対する嫌悪感もからかいの気持ちも見えず、只純粋「帰れ」とまるで忠告しているようだった。
秋叉の言葉に対し疑問を深めていく刀哉。
そしてもう一度、秋叉は言う。
「今すぐ此処から立ち去れ」
秋叉のあまりにも真っ直ぐした目に、刀哉は本当に帰った方がいいのかと思う。
(でも何で帰んなきゃいけねえのか、そんなの知らねえし……)
刀哉が迷っていた、その瞬間。
「琴坂ッ、後ろ——!!」
秋叉の頭部目掛けて、何者かが錫杖を振り下ろそうとしていた。