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Re: —— 吟遊詩人レミの物語 —— ( No.11 )
日時: 2010/03/04 19:13
名前: 白魔女 (ID: Eda/8EBL)



—— 一章 ——


 レミは、朝日を体中に感じながら、森を歩いていた。木々の隙間から溢れ出す木漏れ日ほど、気持ちのいいものはない。特に、朝は格別だ。
 そんなことを思いながらレミは、自分の大きなリュックから、また楽器を取り出す。緑色のフルートだ。口にあて、ためしに吹いてみると、音は森に響き渡る。満足げに笑うレミは、歩きながらそのフルートで曲を吹き始めた。
 すると、どこからともなくやってきたウサギやらリスやらが、レミの後ろをついてきた。どうやら、曲に魅せられてしまったのだろう。レミは構わず吹き続ける。

 吹けば吹くほど、動物達はやってくる。これって、「ハーメルンの笛吹き男」じゃないか——いや、女か——レミがそう思っていると、林の奥で何か物音がした。動物の音じゃない。反射神経のいい動物達は、あっという間に森の奥へ逃げ去ってしまった。


「あっ、いや、ごめんなさい」
 林の奥から聞こえてきたのは、脅しでも、脅迫でもなかった。すると、声の主はおろおろしながら前に出てきた。
 レミよりもっと小さい、女の子だった。金髪で、そばかすが目立つが、可愛らしい少女だ。少し怯えているようにも見えるその足取りで、少女は近づいてきた。

「森で、音楽が流れてるなんて、珍しいと思ってきたの。べ、別にね。お姉さんの邪魔なんか……」


 レミは腰をさげ、少女と頭の位置を合わせてから言った。
「大丈夫だよ。怒ってなんかないから」
「ほ、本当!?」

 子供というのは、ころころと表情を変える。子供らしいといえば、子供らしいが——そこまで考えてレミは思い出した。自分も子供だ、と。


「ねぇ、あの曲、なんていうの? 聞いたことない曲で、珍しいよね」
「うん、そうだね」
 返事をしながらレミは考えた。この近くの村の子か……こんな森の奥なら、他の場所の詩など、知るはずもない。

「ねっ、もう一回、吹いて!」
 要望に答え、レミはまた曲を吹き始めた。この少女のせいか、他の動物は寄ってはこない。


「あっ、お姉さん、あたしの村来る? すぐそこだから!」
「ん、うん。そうさせて頂くよ」
 すると少女はさらに顔をほころばせた。
「あたし、ミーラっていうんだ! よろしくねっ」