ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.10 )
- 日時: 2010/03/31 14:38
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
04〆
ゆっくりとこちらに歩み寄る銀髪の少女、アリス。勿論、片手には喫茶店の窓を破壊する為に使ったメイスが。
あまりの事態に、刀哉の思考回路が追いつかない。今、何処で誰相手に何を言えばいいのか、分からなかった。ただ一つ分かるのは、アリスという少女は自分に危害を加えに来たのではなく、何故かは知らないが自分を助けに来たという事だ。
アリスは刀哉の目の前に立つと、白く柔らかい手を差し伸べる。
「もう一度言う、貴方を助けに来た」
アリスの赤い瞳は、真っ直ぐ刀哉の両目を見つめていた。赤く澄んだ瞳に、思わず吸い込まれてしまいそうな感覚に襲われる。
互いに見つめ合い、少しの間沈黙が続くと状況を整理できた刀哉が口を開いた。
「助けに……来た? 誰から?」
「ある魔術師から。私の目的はその魔術師を捕らえるのが本当の目的で、貴方を助けるのはそのついで。その魔術師の狙いが貴方だとしたら、目的が達成されるのも回避しておきたい」
少女の言っている事はよく分からなかった。
魔術師。
そんなもの現実で言われて分かるわけがない。ライトノベルや漫画、ゲームなんかではよく見るものだが、それはあくまで『架空の物』だから難なく受け入れられる。
だが現実でそんな単語を出すとは、余程の電波か妄想癖のある少女なのか、それとも本当に頭の壊れてしまった子なのか。ライトノベルを読む刀哉としてはファンタジージャンルは好きだが、実際の宗教だのオカルトだのは胡散臭くて信じられない。
「魔術師? ちょ、それはないと思うぞ。出来れば妄想の産物は持ち出さないでほしい……」
「だから魔術師は魔術師。それ以外の何者でもない」
「おい、何なんだこの電波少女はっ!」
「電波……?」
魔術師だのカルトチックな事を云々言う割には、電波とかそういう言葉には疎いらしい。一体何なのだろうかこのコスプレ美少女は。
刀哉が軽く軽蔑の目で少女を見ていると、銀髪少女アリスは無表情のまま、
「……貴方、馬鹿にしているようだけれど」
「いやそりゃそうだろ、魔術師云々ってどこのカルト教徒だ」
「魔術師だけれど、それが」
「……どう育てられたら、こんな現実逃避の思想を持てるのだろう」
刀哉は呆れて溜め息をつく。アリスはそんな刀哉を見て、表情は変えずとも少しむっとしているようだった。
まるでありもしない幻想を認めてもらおうとでもする感じで、アリスは喫茶店内の周りのテーブルを指差す。
「見て」
「な、何なんだよ……」
「周り。メイスで窓を割って入ってきた侵入者がいて、何故誰も騒いでいないと思う?」
「あ……」
刀哉とフレデリークの周りにいた人間。バカップル共がイチャついていたり、女子学生達が携帯をいじったりお喋りしていたりと。
その全ての人間が、ビデオの一時停止のように固まっている。
「この喫茶店内だけじゃない、おそらくこの街全体がこんな感じ。私達は今、ある魔術師の擬似世界にいる。魔術師である私と、私に干渉された貴方は別だけれど術者はこの擬似世界を一時停止する事も、巻き戻しも出来る」
「……」
魔術だなんて信じがたい。
だが刀哉は絶句した。今いるこの世界が、偽者の世界だなんて。一気に世界の終わりを見たような、そんな気分になった。
そんじゃそこらの自然現象でこんな事が起こりうるわけがない。とすると、やはり魔術なのだろうか?
刀哉を落ち着かせるようにアリスは言う。
「……擬似世界といっても、ついさっきまで本物の世界だった。1分くらい前までは。この街の丁度境界線から結界を張り、偽者(レプリカ)の世界を作り上げた。閉じ込められてはいるけれど、脱出方法はある」
「そうか……」
とりあえず今はアリスの言う事を信じてみるとする。アリスの言葉を聞いて、刀哉はほっとした。永遠にこの世界から出られないというわけではないらしい。
アリスは手にしていたメイスをぽいっと床に捨てる。
「え、おい。それお前の武器じゃ……」
「これは違う、単に窓を割るのに使っただけ。私の武器は別にある」
「そっか。そういえばフレデリークがまだ帰ってきてねえな、あいつもこいつらと同じような影響受けていんのか」
「……フレデリーク?」
「あ、お前は知らないんだよな。何か此処に来たのが初めてらしくて、俺が案内してたんだけど」
「……そう」
アリスは何やら考え込んでいるようだったが、刀哉はフレデリークが心配だった。彼女はこの街に来てまだ少ししか経っていないようだった。それが急にこんな事態に巻き込まれるとは、少し可哀相な気がした。