ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.13 )
- 日時: 2010/03/13 12:30
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
05〆
刀哉がフレデリークの行ったトイレの方向を見ている事など気にも留めず、自ら割った窓から外に出る。
「何時までも此処にいる必要は無い。早く外に出る」
「あ、ああ」
時間の止まった外の世界へすたすたと出るアリスの後ろを、刀哉は慌ててついていった。改めて外を見渡すと、喫茶店の中と同じように人間から車から、果ては雲まで全ての物の動きが止まっていた。
頭の中を整理してみると、今いる自分達の世界は偽者であり、ついさっきまでは本物の世界だったらしい。アリスの言う「ある魔術師」が擬似世界を作り上げ、自分達を此処に閉じ込めたという。アリスはその魔術師を倒しに、ついでに刀哉を助けに来たと。
よくよく考えてみると、結構危険な状態だ。アリスは出口があると言っているが、もしかしたら一生此処から出られない可能性だってある。
前を歩くアリスに、刀哉は思い切って声をかけてみた。
「なあ、何か俺に力になれる事ってないのか? その魔術師を倒す事とか」
一いつもなら言わない筈の、そんな言葉が口から出てきた。自分に危険が及んでいるからだろうか。
はたまた、目の前にいる銀髪の少女が心配だからか。
アリスは表情を変えずとも、どこか呆れたように言う。
「……貴方に何か出来る事があるとでも?」
「…………」
アリスの言っている事は、冷淡なんかではなくまったくの正論だった。魔術に関しては素人であり、それ以前魔術という言葉にいまいち現実味を持てない刀哉。そんな刀哉に、何か出来る事でもあるのかとアリスは言っているのだ。
言葉に詰まる刀哉に、アリスは更に言う。
「テレズマ、アストラル、グリモワール、エーテル、四大元素、禁書目録、ルーン文字、黄道十二宮、魔法名、錬金術、祓魔師(エクソシスト)、セフィロトの樹」
淡々と訳の分からない単語を言っていくアリス。おそらくは魔術用語なのだろうが、刀哉には何一つ理解出来ない。
「近代西洋魔術の四大元素を象徴する武器、アレイスター=クロウリーが作ろうとした守護天使の名——今言った語句の中で、貴方が一つでも分かるものがある? 魔術の素人である貴方には、何一つ分からないだろうけど」
結果としては、アリスの言う通りだった。刀哉には言った語句のどれも意味の分からないものばかり。アリスが、言った語句を半日かけて説明したところで刀哉には到底理解出来ないだろう。
刀哉はそれ以上何も言わず、ただアリスの後ろをついていく事にした。自分が何をしようとしたところで、足手まといになるだけなのだから。
***
女子トイレの洗面所。鏡の前で一人の少女は見た事もない銀の剣を出していた。剣身は約90cmで全長は120cm、エストックのように扱いやすい長さで十字架をモチーフにしているような、不思議な雰囲気の剣。見つかったら間違いなく銃刀法違反で捕まるだろう。
少年のような出で立ちの少女——フレデリーク=セルヴァン=シュレベールは何か思い出すように、銀の剣を見つめていた。
暫くしてフレデリークはズボンのポケットからインクの入れ物を取り出すと、蓋を開き右の人差し指を突っ込む。人差し指の先を黒で濡らすと、女子トイレの床に何やら図形のようなものを描き始めた。普通の人間なら意味が分からないだろうが、魔術を知っている者ならこう言うだろう。——「魔法陣」と。
魔法陣を書き終えると、フレデリークは魔法陣を描く為に床に置いていた剣を右手で持つ。そして剣の切っ先を魔法陣の中心に尽き立てた。
「“我が身に使えし名も無き下僕達よ。与えし使命は迎撃。我が[時の番人]の名において汝等を行使する——玉砕覚悟で悪なる敵を殲滅せよ!”」
フレデリークが唱えると、魔法陣がそれに答えるように光り輝く。
フレデリークは魔法陣をそのままにし、喫茶店の女子トイレを出て行った。