ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.19 )
日時: 2010/03/11 15:26
名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)

06〆

 フレデリークが出て行った先には、何かで粉々に破壊された窓。ふと下を見ると、散らばった窓ガラスの破片と共に窓を破壊されたと思われる武器が落ちていた。——メイス。全長約90cmの、敵の鎧を叩き潰す為に作られた殴打用の武器。鋼の棍棒なら、防弾ガラスでもない普通の窓ガラスを割るには充分過ぎる。
 明らかに誰かが侵入してきた跡。だがフレデリークはそんな事など気にせず、壁の3分の2を占める割れた窓からすたすたと出て行く。
 そういえば、とフレデリークは気づく。さっきまでい一緒にいた少年が何処にもいない。フレデリークは窓ガラスが割られた事を知っていた。しかしあえてスルーしていたのだ。窓ガラスを割った侵入者の様子を見る為だ。一応侵入者の行動に少年・泉井刀哉の誘拐も考えていたが、本当に侵入者がそうするとなると少し厄介な事になりそうだ。
 フレデリークは「はあ」と溜め息をつくと、誰にも聞こえないくらいの声の大きさで呟く。

「さて……と。とりあえず連れ去られた刀哉を取り戻しに行かないとなー」

 フレデリークは掌に魔法陣を浮かばせると、そこから大鎌を取り出した。

 ***

 何処にでもいそうなありふれた高校生・泉井刀哉は自分より確実に年下の少女であるアリスの後ろを着いていっていた。銀髪赤眼の魔術師(らしい)、アリスは擬似世界を作り上げ自分達を此処に閉じ込めたという魔術師の討伐に来たそうだ。
 だが、刀哉には何も出来ない。アリスの手足は折れてしまいそうな白く細いがそうではなく、どうやらこの戦いは力が強い云々などという問題ではないらしい。魔術という、何とも現実味のない戦い。
 つまりいうと、刀哉は完全に足手まといなのだ。女の子に頼る事しか出来ないこの状況が、刀哉からすれば情けないばかりであった。
 はあ、刀哉が小さく溜め息をつくと、アリスが後ろを振り返る。艶やかな銀髪が一緒に翻った。

「足手まといな事がそんなに悲しい?」
「……」

 唐突に核心を突かれ、刀哉は言葉が出なかった。事実、刀哉は足手まといなのだから否定する事など出来ない。

「あ、ああ。正直言うとそうだ」
「……」

 今度はアリスが黙り込んだ。いや、どちらかというと考え込んでいる感じだ。少しの間沈黙が続いて、やがてアリスが口を開いた。

「事件に巻き込まれた被害者なのに、流石に何も事情を知らぬまま終わるのも哀しい」
「……」
「だから、少しくらいは教えておく」

 アリスの言葉は、刀哉にとっては結構意外なもので驚きを隠せない。だがすぐにアリスの話を聞こうと、冷静にアリスを見る。事情を知りたいか知りたくないかと言われれば、やはり事件の関係者として知っておきたい。
 アリスは前に向き直りまた歩き出すと、静かに語り始めた。

「その魔術師は、魔術世界の裏切り者と言われている」
「裏切り……者?」
「そう、裏切り者」

 魔術世界の裏切り者、刀哉にはよく理解出来ない。が、少しでも話を飲み込もうと出来る限り想像してみる。アリスは続ける。

「私はよく知らないのだけれど、魔術師の中でもトップクラスの実力らしい。その魔術師の武器はヴァイオリンで、滅びの音を奏でると言われている」

 アリスは淡々と告げた。
 刀哉はやはりよく分からないが、ぼやっとした想像だけでも相当恐ろしい敵だという事が分かった。そんな敵と、これからアリスは戦うというのだろうか?
 そして、そんな敵の世界に閉じ込められたフレデリークは無事なのだろうか?
 刀哉の背筋に、突如悪寒が走った。一時的に動きを止められているだけだろうが、やはり心配だ。

「……っ。そんな奴の世界に閉じ込められて、フレデリークの奴大丈夫なのかよ……」
「……フレデリーク?」

 思わず呟いた刀哉の言葉に、アリスは僅かに疑問符を浮かべる。

「あ、えっと確か本名はフレデリーク=べレンガリア=ラウル=セルヴァン=シュレベール……だっけか? さっきも言ったと思うけど、俺が街を案内してたんだ。我が侭だろうけど、あいつも一緒に助けてくれねえか?」

あの長ったらしい名前をよく覚えていたな、と自分で自分に感心する刀哉。 
刀哉の言葉を受けてアリスは少し考え込むと,マントから何やら文字が掘り込まれた杖を取り出す。そして小さい円を描き、その中に記号やら文字やらを掘り込むと小さく呟く。
 
「わっ!?」
「……この鳥は偵察用の使い魔で結界などを障害としない。外で待機している仲間に伝令役を頼んだだけ。貴方を外に出したら、そのフレデリークという人も助けるから大丈夫」

 記号や文字が描き込まれた円から飛び出した小鳥を眺めながら、アリスは平淡に言った。刀哉も飛び立ち既に遠くまで行き、ほんの小さくしか見えない小鳥を眺めた。
 アリスは杖を仕舞うと、小さく呟いた。

「……それより今は周りの敵の対処が先の様」