ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.29 )
- 日時: 2010/03/12 17:23
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
07〆
アリスの言葉に刀哉は怪訝そうに周りを見渡す。周りには、これといって敵と思われるような人物はいない。
ただし、ビデオの一時停止のように硬直していた人間が、自分達を取り囲むように立っていたが。墓地から出てきたゾンビの如くのっしりと、不気味にこちらに歩み寄ってくる。歩く速度はかなり遅いものであったが、それでも確実に自分達に近づいてくる。
それだけなら逃げればまだ済む話だし、第一相手が襲ってくるかなんて分からない。が、襲う襲わないの前に確実に周りの人間が“危険”という事を示す物があった。
ある女の手に握られている物、間違う事なくそれは包丁だと分かった。ある男の手に握られている物、迷う事なくそれは鋸(のこぎり)だと分かった。ある子供の手に握られている物、疑う事なくそれはドライバーだと分かった。
日常あらゆる場面で使う道具は、時と場所が変わるだけで人の命を奪う凶器と化すのだ。
「おいおい、何だよこりゃ……」
「……敵の魔術師が迎撃術式でも作り上げたのか。どうやら術式が勝手に使い魔を操作する自動操作型(オートタイプ)の様」
自分達を襲いに来たと思われる人間に囲まれても、冷静に敵の戦闘能力を分析するアリスはこういう状況には慣れているのだろう。
刀哉は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
(どうすりゃいいんだよ……。俺は魔術なんて知らねえぞ!)
どうしていいか分からず、その場に立ったまま動けなくなった時だった。
ガコン!と勢いのいい打撃音がして、一人の男が吹っ飛ばされた。
一番手前の人間が飛ばされたことで、後ろの人間達は男を避けることができずぶつかり後ろに倒れ、また後ろの人間がぶつかり倒れ、ドミノ倒しのようにタイルの敷き詰められた地面に倒れていく。
周りの人間達は何らかの魔術で意識を奪われているのか、特に気にする様子はない。だが刀哉は吃驚して辺りを見渡す。
目に映ったのは、片手に全長約140cmの銀の杖を手にしたアリス。だがそれは先程窓を壊したメイスではなく、まったく別の物。先には色々な見慣れない文字が刻まれた銀色の石がついており、六枚の銀色の花弁のようなものが石を包み込んでいる。更に花弁にも石と同じく文字が刻まれているというデザインだった。どうやらアリスがその杖で男を殴り飛ばしたらしい。
カツン、という硬い音。
「“秩序と断罪を司る神器『儀式杖』を此処に。断ち切りしは人の罪、与えしは一律の罰。純真なる光を肯定し、穢らわしき悪を否定せよ。憐れなる罪人に唯一絶対の裁きを”」
アリスが言い終わった途端、握っていた銀の杖の先を包んでいた花弁が開かれる。まさに蓮の花が咲き誇ったように。
瞬間、無数の光の槍が豪雨のように降り注いだ。一撃一撃が天罰の如く、亡霊のような人間を貫いていく。刀哉は唖然とその光景を見ていた。
カツン、ともう一回地面を叩く硬い音。開かれていた杖の先の花弁が、再び閉じていく。
「……ちょ、こんな事して大丈夫なのか……っ?」
「平気、所詮はこの人達も本物を写しとった複写(コピー)でしかないから。本物の人間が死ぬわけじゃない」
刀哉はほっと安堵するものの、やはり足元に血塗れの人間が大量に倒れ付しているというのはどこかゾッとする。近くの茂みには奇襲を狙っていたと思われる人間達が光の槍の餌食となっていて、陰から手や足がチラついている。