ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.3 )
- 日時: 2010/03/12 17:24
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
序章/時空の旅人-The Space-Time Traveler-
見渡す限りの世界は、荒廃の一言に尽きた。我こそが一番と競い合うように空高く建っていたビルは、全ての窓は粉々に砕け散り、地震でもあったかのように脆く崩れ去っている。スーパーなどの建造物が崩れ去り、障害物が無くなった地に風が吹く。捨てられた空き缶が、カランコロンと音を立て吹き飛んでいく。
一歩足を踏み出せば、周りには人の死骸、死骸、死骸。生きている人間など、一人もいなかった。
ただ一人、自分を除いては。
「それにしても凄い惨状だな。魔力からして天罰“神焔”(しんえん)……術者は大天使『神の炎』か」
荒れ果てた世界を見ながら、他人事のように世界を荒廃させた原因を解析していく。いや、他人事でも当たり前といえば当たり前かもしれない。自分とは本当に無関係な事なのだから。
今この世界に来たばかりの自分に、どういう経緯で世界が焼き払われたかは知らない。だが一つの世界に留まる必要のない自分にとって、この世界がどうなろうが知った事ではない——それが彼女、フレデリーク=セルヴァン=シュレベールの考えだ。正確にはフレデリーク=べレンガリア=ラウル=セルヴァン=シュレベールが本名となる。長ったらしいフルネームを名乗るか名乗らないかは気まぐれだが、大抵は省略したフレデリーク=セルヴァン=シュレベールと名乗る事が多い。
フレデリークの顔は中性的だが、口調や服装からして男の子と見られる事が多い。赤毛に近い焦げ茶色のショートカットに、鳶色の目。ベレー帽の形をした焦げ茶色の帽子をやや斜めに被っており、シャツの上に茶色のベストを着ている。が、胸部の下辺りでカットされている為、赤茶色のネクタイがちらついている。
更にベストより少し下辺りの長けの焦げ茶色のブレザーを着用。ブレザーと同じ色のズボンと、初対面の人間からしてみれば完全に男の子だろう。
フレデリークは重なり合っている人々の死骸を、避けるように歩いていく。実は大天使ウリエル——またの名を『神の炎』が天罰“神焔”を発動させて既に一日二日経っていたのだが、世界を破滅へと追い込む程の大魔術は未だに『魔力』としてこの地に残っていた。
ビリビリと感じる大天使『神の炎』の魔力に、フレデリークはほんの少し嫌な汗をかく。おそらく『神の炎』は、堕落したこの世界を残らず焼き払えと神に命令された筈だ。その中には堕落した“人”も含まれているだろう。もしこの世界にまだ人間がいると気づいたら——。
脳裏に一瞬、最悪の想像が浮かぶが自分には関係ないとその想像を振り払う。
「この世界は何もないみたいだし、違う世界に行くとしよう」
そう言って右手を真正面にかざす。すると様々な文字や記号が描かれた光の円——魔法陣が浮かび上がる。そこから始めに、円の弧のように大きく曲がった巨大な鈍色の刃が出てくる。続いて刃に繋がる鈍色の柄。それは死神が持つような、正真正銘大鎌だった。
フレデリークは大鎌を掴むと、何も無い空間を斜めに一閃。“何も無い”空間の筈なのに、何故かそこに人間一人くらいの長さの切れ目が入っていた。切れ目は徐々に大きくなり、その“先”には、この世界のどこでもない“異空間”が広がっていた。
「——次の世界は僕の心を満たしてくれるかな?」
ぽつりと呟くと、フレデリークは切れ目の中へと足を踏み入れた。ほんの少し、期待を抱きながら。