ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.36 )
日時: 2010/03/20 13:32
名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)

第二章/交錯する舞台裏-The Backstage That Mixes-

〆10

 とある都会。我こそが一番と競う様に聳え立つ高層ビルの群れの中、ある一つのビルの屋上。そこには何故だか中学生くらいの一人の少女がいた。腰まである緩いウェーブのかかった金髪と碧眼、それからベレー帽のような形の黒い帽子が特徴的な一人の少女が。
 顔立ちは化粧が必要ない程度のデフォルトで整っている。服装は白いYシャツに灰色のブレザーにブレザーより少し薄いグレーのプリーツスカート、蝶結びの赤いリボンがアクセントの学生服。それに合った黒いタイツにローファーと、私立のお嬢様学校の生徒をイメージさせるような感じだった。しかしいくら顔立ちが整っていたとしても、この炎天下に長袖の服装とは季節外れにも程があるだろう。
 少女の右手の人差し指にはセキセイインコのような、鮮やかな青い色の小鳥が止まっていた。少女は小鳥相手とまるで話でもしているかのようにこくり、こくりと頷く。何度か頷いた後、少女が左手でさっと払うような動作をすると小鳥が何処かへと飛び去っていった。
 少女はくるりと踵を返すとすたすたと歩いて行く。その先には、物陰に隠れるようにして眠る一人の少年がいた。黒曜石のような黒い髪にニット帽のような黒い帽子、黒いコートにマフラー、ブーツと完全防寒服でこちらは少女以上に季節外れな服装をしている上に、腰には黒のガンベルト。因みにオシャレではなく本物の銃が二丁仕舞ってある。見つかれば即銃刀法違反で捕まる事は間違いない。
 少女は屈み込み少年と同じくらいまでの背の高さになると、少年の肩をぐっと掴み大きく揺さぶった。

「……す。とっとと起きやがれですクレイグ!」
「……ん? 何……? エヴァ、もう仕事……? まだ眠ぃんだけど……やっぱ起きなきゃ駄目か……」

 あまりの揺さぶりっぷりに、すうすうと気持ちよさそうに寝ていた少年・クレイグも眼をこすりながら目蓋を開いた。まだ寝ぼけているような眼は赤い色。
 「ちっ、寝坊野郎」と少女・エヴァが舌打ち+悪態をつく。クレイグはゆっくりと立ち上がるとエヴァに尋ねる。

「で、何だよエヴァ……? メンドくせーから出来るだけ早く終わらせたい」
「それはこっちも同じですよ。で、それでですがねクレイグ」

 クレイグは「ん」と相槌を打つ。エヴァは敬語に粗雑さ混じった言葉で告げる。

「こっちとしてもメンドせえですが、急いでイギリスに戻りますよ」
「……っはあ!?」

 いきなりそう言われてクレイグは思わず引き下がる。名前や髪の色から連想できるように、彼らは外国人なのだ。何か用事があって日本に来日したのだろうが、いきなり帰国するなどと言われれば驚くのも無理ないだろう。
 仁王立ちで「ふん」と鼻を鳴らすエヴァに対し、理由も告げられず帰ると宣言されたクレイグは訊く。

「何でだよ? イギリスに帰ってどうするわけだ?」

 当然の事を訊ねるクレイグに対し、エヴァは仁王立ちのまま、

「まあそれは“行く途中”で話しますよ」
「……行く途中? おい、ちょっと待て。まさかあの方法でイギリスに戻るつもりか……?」

 クレイグの顔色がさーっと青ざめていく。日本からイギリスまで飛行機だと直行便でも12時間は掛かる。が、エヴァはどうやら飛行機とは違う方法でイギリスに戻るつもりらしい。
 顔が青ざめたままのクレイグに、エヴァは追い討ちをかけるように告げた。

「それと急ぎの用ですので、いつもより“速く”するので肝に銘じておきやがれです」
「……っ」

 クレイグは脳内で繰り広げられる未来予想図を見て、青ざめるを通り越して完全に顔色が白くなったのであった。