ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.38 )
日時: 2010/03/29 14:22
名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)

〆11

 どうしてこうなった?
 少年は自問する。
 彩明高校と呼ばれる公立高校の近くにある四階建てのマンション。大体の部屋が埋まっている中、三階の一室にはごく普通の高校生が住んでいる。
 少年——泉井刀哉は自室のベットで仰向けになって天井を眺めていた。服装は学校帰りの夏服のままで、頭では繰り返し自問しながら。
 どうして、何故、こうなってしまった?
 自問する度に答えは分からないまま、だんだんと鬱になっていく。自室でその鬱は隠されることなく、刀哉の顔にどこか陰りがある。
 自問が繰り返される最中、刀哉の脳裏には一人の少女が浮かんでいた。腰まである艶やかな銀髪に、宝石のような赤色の瞳。アリス=エインズワース、ついさっき知り合ったばかりの少女の名だ。——今頃は、血塗れで偽者の世界の地べたに倒れているだろう。
 神秘的な美しい少女は刀哉の気分を良くすることはなく、寧ろ思い浮かべる度に気分は悪化していく。
 
 こんな筈じゃなかったのに。

 急に苛立ちが生じ、刀哉は頭に敷いていた枕を乱暴にぶん投げる。枕は壁にぶつかると、そのままぽとりと床に落ちていった。
 そう、自分は本来悪い立場にいるわけではない。自分は被害者なのだから。
 なら何故こんなに罪悪感を感じる? 
 ……その事に対しての答えはもう分かり切っている。なのに、自分の弱さが答えを出す事を邪魔している。自分は逃げている、自分の心とも向き合う事も出来ない弱虫。
 自分がこんな愚かでなければ、少女が血の海に沈む事など無かっただろうに。今頃どうしているだろうか——。
 一瞬最悪の想像が浮かび、それを打ち消すように首を横に振る。刀哉はうつ伏せになって顔をベットに埋める。

「殺された、と考えるのが普通でしょうね」

 ベランダ側から、ふと声が聞こえた。平淡とした少女の声が。
 がばっと起き上がってベランダ側を見る。思考を読まれた事に動揺が隠せない。
 一人の少女がいた。太股まである金髪にエメラルドのような緑の瞳、しかし瞳に輝きは無い。ノースリーブの黒服は足の付け根あたりまで繋がっており、バルーンパンツのようになっている。肩より少し下には、手をすっぽりと覆う長さの黒い袖が右腕左腕両方に。その下は黒のサイハイブーツで、白く細すぎる手足はしなやかだった。輝きの無い機械的な瞳は、真っ直ぐこちらを見ている。

「……っ、誰だお前……!?」
「そうですね、“双翼の闇”とでも名乗っておきましょうか。魔法名なのですが、本名が宜しければ本名を名乗りましょうか?」
「……いや、別にいい」

 金髪翠眼の少女“双翼の闇”は鍵のかかっていない無用心なベランダから、刀哉の部屋へと入る。刀哉はそれを止める事なく少女が入ってくるのを見ていた。