ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.56 )
- 日時: 2010/03/31 15:56
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
〆14
部屋を飛び出して辿り着いた先は、行き着けのコンビニ。マンションの割と近くにあり、どこにでもある普通のコンビニである。
何かあるといつも此処に来てしまうんだよな、と刀哉は自嘲気味に苦笑する。何というか、身体が自然に辿り着いてしまうのだ。それで暫く立ち読み状態のままコンビニに入り浸るという。
コンビニに入るとピロピロという聞き慣れた音楽と、「いらっしゃいませ」と店員さんの営業スマイル。
さて本は……と入り口の右側をみてみる。
……そしてそのまま一瞬の沈黙と硬直。だがそれもすぐに溶ける。
「な……っ、泉井!?」
「……っ、夜桜か……!?」
お互いがお互いを見返す。それこそ信じられないと言わんばかりの形相で。
目の前にはこの糞暑い真夏には色んな意味で似合わない、長袖の和服——正確に言えば陰陽師と呼ばれる職業の装束を着ている黒髪ショートヘアの少女。
夜桜茉莉(よざくら まつり)。
自称陰陽師のこの少女はなんと刀哉と同学年、しかも同じクラスだ。ライトノベルなどのジャンルの一種としてはファンタジーは受け入れているが、こうも現実で自分は錬金術師だの何だの名乗る人間は胡散臭い。まあついさっき『魔術』というものを目の前で見せられてしまったばっかりなのだが。
自称陰陽師こと夜桜茉莉もどうやら立ち読みをしていたらしい。今月発売された、某ぬらりひょんの血筋を受け継ぐ少年が主人公の妖怪漫画の最新刊を片手に、刀哉を見ながら呆然と立ち尽くしている。
「……えっと」
「なん? 陰陽師がコンビニで立ち読みしとったら悪いんか?」
「……いや、別に」
「思っとるやろ! 嘘ついとるんやないで!」
「嘘ついてねーし! そっちこそホラ吹くな似非陰陽師!」
「え……似非やてぇ!? どこが似非なんや、言うてみい!」
「全部」
「……っのお、この女たらし! おもてへ出ろ、滅したる!」
「滅せるもんなら滅してみろ……っておい! ちょ、やめて下さい夜桜さん! 暴力反対ぃぃぃぃ!!」
「自分で言うておきながら今更なん言うてるんや! 覚悟出来たかぁ!?」
「ていうか周り見て見て!」
刀哉の必死の訴えに、茉莉はハッと辺りを見渡す。客達がゾロリと迷惑そうな目、興味ありげの目でこちらを見ているではないか。店員のお姉さんまでもが営業スマイルをくずしかけている。が、何とか平然を取り繕っているようだ。
流石の茉莉も襟首を掴んでいた手をパッと離す。
面倒臭い奴にあったもんだと刀哉は内心溜め息をつく。バリバリの京都弁と暴れ虎の如き形相で威嚇してくる茉莉。これだからこいつは苦手なんだ。
茉莉は刀哉を一瞥すると、再び漫画のページへと目を向けた。茉莉が嫌いなわけでもないが、隣で本を読むというのはどこか気が重い。
まあ仕方無い、と刀哉はいくつもある漫画から一つを手に取り読み始める。ふむふむ、この作者は今年本を三十冊読む事が目標っと……。
——コンビニで立ち読みをしてから既に一時間が経過。隣の夜桜茉莉は何か専門用語(おそらく妖怪系)をブツブツと呟きながらメモ帳にメモをとっている。
だがメモを書き終えると茉莉は本をパタンと閉じて、元の場所に仕舞った。
「ん、もう帰るのか?」
「やっぱあんたの隣は居辛いわ……。帰る」
何か微妙のショックな事を突きつけて、茉莉は外に出て行こうとした。
(……あれ)
気づけば刀哉は茉莉の服の長く白い裾を掴んでいた。茉莉は少し驚いたような顔でこちらを振り返る。
何でだろうか。誰か知っている人間の隣——喧嘩でもこの日常のやりとりは、何かの重荷を忘れる事ができたような気がするのだ。
自分でもよく分からないまま茉莉を見る中、口は自然と開いた。
「夜桜、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「何や、とりあえず外でな」