ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.60 )
- 日時: 2010/04/06 16:45
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
〆15
***
「……悪いな夜桜」
「別にええよ」
何故だか茉莉に連れ出されるような形で外に出てきた。刀哉の個人的な希望で人目につかない所、此処の近くで言えばコンビにの裏だった。
コンビニの裏は刀哉と茉莉の二人だけ。詰まるところ一対一なわけである。自分で引き止めたとはいえ、流石にこの茉莉と二人っきりは少し辛かったりした。何せ茉莉は傲岸不遜に腕組み状態でこちらを見て——というか睨んでいる。いや、茉莉は普段からこんな唯我独尊・傲岸不遜キャラではないのだが(多分)、刀哉を目の敵にしている茉莉は刀哉の前では自然とこういう態度になるわけだ。
「…………」
茉莉は何も言わない。
しかし茉莉の視線は思いっきり「早く言え」「お前に付き合ってる暇なんかない」と訴えている気がする。刀哉は茉莉の視線に少し怖気づきながらも、話を切り出した。
「なあ、夜桜。例えば誰かがお前のピンチを助けたとする、だけど今度はお前を助けてくれた奴がピンチになってしまった。なのに自分には力が無いからそいつを助けられない、もう逃げるしかない——こういう事になったら、お前どうする?」
そんな事をどこか抵抗がありつつも言う。茉莉は黙ってそれを聞いていた。刀哉を見る視線は、先程の唯我独尊・傲岸不遜な感じとは違い、真面目なものだった。その事に刀哉は半分驚きながらも、半分嬉しく感じる。
暫くの間沈黙が刀哉と茉莉の間を隔てる。正直なところ、刀哉は茉莉の返答が気になって仕方なかった。
そして茉莉はこう言った。
「はあ?」
たった一言、茉莉は言い放った。
刀哉はその一言がお前の下らない妄想話に付き合ってる暇はない、何を意味不明な事を言ってるんだと思われているのかと思って、心のどこかがグサリときた。
だがそれで終わりではなく、茉莉はこう続けた。
「馬鹿やないの、あんた。そないの意地でもそいつを助けるに決まっとるやろ。助けてもろたのに自分は助けへんなんて、そないなの只の意気地無しやん、薄情者やんか。自分には力が無いと思い込ませて、言い訳作って安全地帯に逃げとるだけや」
真っ直ぐな目で茉莉は言う。刀哉のことを、少しも視界から外すことなく真っ直ぐと見て。
ああ、そっか。
目から鱗が落ちたとはこの事だ。まるで絶対分からないと思っていた難問を、目の前であっさり解かれてしまったような感じだ。
刀哉が何かに気づいたのを茉莉が気づくと、茉莉は踵を返して、
「そういう事やから、あんたはあんたに出来る事をし」
それだけ言ってすたすたと去っていってしまった。
茉莉には分かっていたのかもしれない。自分が何かに悩んでいた事を——いや、さっき話した事が自分にそのまま当てはまる事を。
思わず苦笑してしまった。今まで気づかなかった自分が馬鹿らしかった。
苦笑は自然と笑いに変わっていく。
「そうだよなあ……?」
他の誰でもなく、泉井刀哉自身に言い聞かせるように。
自分は怖かっただけなのだ。
「こんな事が逃げていい理由になんてならないよな、泉井刀哉?」
刀哉は右手で拳を作りぎゅっと固く握る。
行くべき場所なら、もう分かっている。
魔術師でも何でも来い。
「なってやろうじゃねえか、主人公(ヒーロー)に」
姫(アリス)を助け出す主人公になってやろうじゃないか。
少年は不敵に笑い、覚悟を決める。
自分はごく普通の一般人だ、魔術にどう対抗すればいいだなんて分からない。自分が今しようとしている事は、まさに『無謀』の一言に尽きる。
だけどそれでも見捨てられない、只それだけだ。
それだけあれば充分だった。
「待ってろよ、アリス」
今助けるからな。
王道のヒーローものだと、こう続くのだろうか。
拳を握り締めたまま、少年は目的地へと走り出した。