ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.7 )
- 日時: 2010/03/29 16:09
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
02〆
買い物にくたびれた客が、自動販売機のジュースを飲んだりなどしてそれぞれ一時的な休息を味わっている。そんなデパートの屋上に、場にそぐわない格好をした少女がいた。
下界を容赦なく照りつける太陽の光さえも糧とし、光り輝く銀髪は腰まで伸びている。全てを見透かされるような澄んだ赤い瞳は、ルビーのように美しい。肌はシルクのように白く、手や足はしなやか。服装はノースリーブの黒いワンピースで、スカートの部分はバルーンスカートのようになっている。靴はニーハイブーツ程ある黒の編み上げブーツと、そこまではどこか人を寄せ付けない雰囲気を持つ、恐ろしい程の美少女。
だがその服装に西洋の甲冑のパーツをばらつかせたように着用しており、纏っている白いマントは甲冑のパーツの一部を肩につけて固定している。両手の肘からは同じく甲冑を着用しており、左眼の目元の下には「Ⅳ」と刻まれている。
天使のように神秘的な美少女でも、格好は明らかに他の人間とは違い異様だ。
だが屋上で休憩しているどの人間も、少女の存在に気づいている様子はなかった。視界に映っていないとかそんな事ではなく、根本的にそこに“いない”という認識なのだ。
誰にも気づかれる事なく、少女は屋上の柵から地上を眺める。そんな少女に、また別の少女が忍び寄っていた。その少女もまた、銀髪の少女に劣らない美しさだった。美しさ、というよりは“可愛らしい”の方が合っているだろうか。太股まで伸びている、黄金に輝く金髪に虚ろなエメラルドグリーンの瞳。ノースリーブの黒服は足の付け根あたりまで繋がっており、バルーンパンツのようになっている。肩より少し下からは手まですっぽり覆う長さの黒い袖が、右腕左腕の両方に。黒のサイハイブーツを履いており、肌はミルクのように白く手足は華奢でしなやか。人形のような小柄な体格の少女だ。
銀髪の少女の桜色の唇が開かれる。
「一応礼は言った方がいいのか、“双翼の闇”」
「そのような無駄な行為は要りません、報酬は前もって言った通りので結構です」
金髪の少女——本名ではないだろうが“双翼の闇”が淡々と答えると、銀髪の少女はつまらなそうに「そう」と言った。
銀髪の少女と“双翼の闇”、暫く無言が続くとやがて銀髪の少女が口を開く。
「……貴方との会話はやはりつまらない」
「それは貴方も同じだと思うのですが。それ以前に私と会話をする必要などありますか?」
“双翼の闇”にそう指摘されると、銀髪の少女は何か考えるように黙り込んだ。一応彼女に反論する事も出来るのだが、“双翼の闇”には何を言っても無駄だと悟った。
“双翼の闇”は銀髪の少女がこれ以上何も言う気は無い事を察すると、静かに“双翼の闇”の周りを旋風が包み始める。
「それでは私はこれで」
“双翼の闇”はそう告げると、旋風に包まれ止む頃には彼女の姿は何処にもなかった。銀髪の少女はその一部始終を見届けると、呟く。
「……自分のやるべき事をやらなければ」
意志を固めるように、小さく。
***
「美味しいね。これ」
「……そして何故お前のパフェの代金まで俺が」
「いいよ、僕払うから」
「……いや、やっぱ俺が払う」
「有難う、刀哉」
フレデリークはチョコレートパフェを食べながら、可愛らしく微笑む。
とあるカフェのテーブル、向かい合わせで男女が座っていた。一人は夏仕様の学生服の男、もう一人は季節とまったくそぐわない格好をした男の子のようなボーイッシュ系の少女。
ボーイッシュな格好のせいか、フレデリークにどこかクールで男の子っぽい印象のあった刀哉だが、今目の前にいるフレデリークは周りから見ても心から美味しそうにパフェを食べる、一人の可愛い“女の子”であった。元々フレデリークの顔立ちが整っているのもあって、パフェを食べるその姿は絵に描いたような女の子。そんなフレデリークに、不覚にもドキリとやられる刀哉。
ふとフレデリークは顔を上げて刀哉を見る。クリームののったスプーンを眺めると、スプーンをひょいっと刀哉の目の前に差し出す。
「食べる?」
「え、な、ななななな!?」
戸惑う刀哉を見て、悪戯っぽく笑うフレデリーク。勿論スプーンはフレデリークの口付けである。