ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 禁忌現実-The Fantasy to Exist- ( No.8 )
- 日時: 2010/03/04 15:08
- 名前: 付喪 ◆29ayQzCLFo (ID: YpJH/4Jm)
03〆
フレデリークが自分をからかっているのは分かっているが、これでも泉井刀哉は健全で純粋なる青少年だ。
(ちょ、待て待て待てーっ! 何? 俺なんかした? 桑原辺りなら喜んで即行スプーンを口の中に入れていただろうが、俺はフラグ立てる気なんて更々ねえぞ! これは異議を唱えるべきだよな? そうだよな健全なる青少年泉井刀哉!)
冗談とは分かりつつも、案外真面目に考えてしまうのが健全で純粋なる青少年、泉井刀哉だったりする。
混乱状態の刀哉を見つつ、フレデリークはくすりと笑った。そしてスプーンを自分の口へと運ぶ。
「勿論冗談だよ、そもそも僕は誰かの口付けスプーンを使う気なんて毛頭無いしね」
フレデリークがそう言うと、刀哉は安堵しつつもどこかがっかりしていた。フレデリークはこれを狙っていたのかもしれない。刀哉は思う、こいつ性格悪いな。
フレデリークがパフェを食べ終えたところで、テンションを持ち直した刀哉は問いかける。
「お前さ、此処初めて来たって割には随分と日本語ぺらぺらだよな。講師でも雇ってたのか?」
「んー、此処に来たのは二回目だけど“この場所”に来たのは初めてだな」
此処に来たのは二回目だけど、この場所に来たのは初めて? 何だそりゃ、と刀哉はフレデリークの言葉について考え込む。つまり日本に来日したのは二回目だけど、此処に来たのは初めてってことだろうか?
というか、そもそも何故この少女は一人なのだろうか。家族と迷子にでもなったのか。でも、このどこかクールな雰囲気を漂わせる少女が迷子という想像が出来ない。それに、迷子の状態でここまで落ち着きがあるとも考えにくい。
まあ「迷子になった」なんて一言も言っていないし、第一自分には関係ないと刀哉は結論付ける。
刀哉の考えがまとまったのと同時、フレデリークが席を立った。
「どうした?」
「ちょっとトイレに、ね」
フレデリークは小さく笑うと、踵を返してトイレの方向へと向かった。
話し相手がいなくなり、暇になった刀哉は頬杖をついて外を眺める。
そこには銀髪赤眼の美少女がいた。
「な!?」
刀哉驚きのあまり立ち上がって、一歩後ろに下がった。
目の前の美少女は腰まで伸びている艶やかな銀髪に、全てを映しているような赤い瞳。服装はノースリーブの黒いワンピースで、スカートの部分はバルーンスカートのようになっている。ニーハイブーツ程ある黒の編み上げブーツと、ここまではどこか人を寄せ付けない雰囲気を持つ美少女。
だがその服装に西洋の甲冑をばらつかせたように着用されており、纏っている白いマントは甲冑のパーツの一部を肩につけて固定していたり。更には左眼の目元に「Ⅳ」と刻まれている、コスプレのような格好の少女であった。
刀哉が無意識に見惚れていると、少女が何かを取り出した。そしてそれは、ぼうっとなっている刀哉を一瞬で我に帰らせた。
メイス。
殴打用の武器であり、特に金属製の鎧など相手には絶大な威力を誇る。通常のメイスは60〜90cmで少女の持つメイスも、大体90cmほど。だが1mに満たずとも、充分立派な凶器である。
刀哉の生存本能が「逃げろ」と伝えていた。が、本物の凶器を前にして身体がうまく動かない。
刀哉が行動を起こす前に、少女が先手を打った。メイスを振り上げると、カフェの窓目掛けて大きく振り下ろした。
バリン!と音を立てて窓が割れ、いくつもの硝子の破片が飛び散る。刀哉は本能的に腕を顔の前に出す。
少女がメイスを使って店内に乗り込んできても、何故か誰も騒がない喫茶店。何か言おうとしても言葉が出てこない刀哉を見て、少女は告げた。
「私はアリス=エインズワース。貴方を助けに来た」