ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師ト死神様 ( No.2 )
日時: 2010/03/03 17:25
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第壱話 サヨナラ

ド田舎の真ん中にある坂出駅、午前6時ちょっと。
俺『髙橋秀彦』は、煙草を咥えながら電車を待つ。

思い出してみる。坂出中学校での出来事。
初めての授業で緊張してた、あの日。
生徒とサッカーをした、あの日。

あと…一番心に詰まっている、あの日。
『事件』ともいえる、あの日。

…身体が急に重くなる。
ぎゅうっと、胸が押しつぶされそうになる。


——誰かが俺を呼ぶ。「先生」、確かに聞こえた。
振り返っても、教え子らしき人はいない。
一体なんだったのだろう…、疲れのせい?

「どうしたの?」

やたら静かなこの駅に、彼女の声が響く。
「なんでもない」、俺はそっけなく答えると
彼女の眉がヒクっと動く。

「なにそれぇ。美由紀に隠し事しないでよ、ね?」

怒っているようで、笑顔で言う美由紀。
もうすぐ美由紀とも「サヨナラ」だ。

「なぁ、美由紀。ホントに一人で平気か?」

「当たり前よ。馬鹿にしないでよね!」

俺は別の学校に移動する。
そこはここから電車で半日ぐらいかかる所にある。
そんな所に毎日出勤するわけにはいかないから、
異動先の学校の寮に泊まる事にした。

だから、美由紀としばらく「サヨナラ」。

「…来た。」

やっと電車がやってきた。
電車のドアが開くと、彼女の顔が暗くなる。

「じゃあ、…いってくるな。」

「…応援してるからね!
 お土産っ、よろしくっ!」

美由紀が俺の背中を押す。少し痛い。
本当はちょっと怒っているんだろうな。

発車を知らせるベルが鳴る。
二人を遮るように、ドアが閉まる。

美由紀は小さく手を振った。
だから俺も降り返す。「サヨナラ」と呟いて。

…電車は動き出した。


     ○

午前6時半。
私は竹林の中を走る。というか、逃げている。
あぁ、しつこい、うざったい。なんなんだ、一体。

「北条。北条紫堂」、さっきから誰か呼んでいる。
その声から逃げようと必死で私は走る。もしかしたら
後ろに誰かいるんじゃないかって思って。

でも、聞こえるのは私の足音だけ。
なんだ。気のせいだったんだ。

「ばっかみたい。」

やっぱり『見えない物は信じない』方がいい。
だから、さっきの声もきっと気のせい、だ。

竹と竹の間から太陽の光が差し込む。
そんな風景が見られる、私だけの空間。

小さい時の事を思い出す。
誰もいない、ここみたいな竹林の中で
2人の兄ちゃんと父さんと、よく遊んでた。

…1度だけ迷子になって、誰か助けてくれたっけ。
手を繋いで、家まで送ってくれたよね、父さん。

空に向かって呟いた。
父さんに聞こえるかなって、そんな期待を持って。


光を浴びていると、誰かが私の空間に足を入れる。

「ここにいたのか…『殺女』。」

太陽を雲が遮る。…光が消える。
また『黒猫』だ。もぉ、うっとおしい。

私は夢中で逃げる。
『奴ら』からの解放を求めて。…自由を求めて。


まぶしい光が私の目に刺さる。
竹林を抜けると、学園の校門前につく。
足音も聞こえない。そう油断していた時だった。


「……北条?」

「サヨナラ」したはずの、やさしい声だった。