ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師ト死神様 ( No.4 )
日時: 2010/03/09 17:39
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)


第参話 言いつけ

私はケータイを手に取る。
『電話帳』から『黒田』を選択する。
そいつの電話番号の最初に『184』をつけて。

『…もしもし?…』

少し不満そうな声で電話に出られると、
こっちまで腹が立ってしまうじゃんか。

「あぁ、さっきはごめん。どうかしてた。」

自分が悪かったら、すぐに謝らないといけない。
これは父さんの言いつけ。守らない訳にはいかない。

でも素直に謝っても納得しないのが黒田だ。
奴は相手が必死で反抗するのに対抗するのが好き。
いわば『子供』。私より2歳上の『子供』だ。

『『どうかしてた』とは?』

私の中の何かがプツンと切れる。
なんなの、こいつ。

「だから…その、調子が悪かったの。」

電話の向こうから鼻で笑う声が聞こえる。
これだから黒田は嫌いなんだ。

「…言いたいのはそれだけ…。
 ただ謝るために電話しただけだから、じゃ。」

黒田は何か言いかけた。
でもお構いなしに電話をきる。

——ちょっと、すっきりした。
少しは高彦との『あの事件』のこと、忘れれたかな。


       ○

『執事』のような人に
やたらと大きな部屋で取り残されて3分ちょい。

ソファはふわふわしていて、心地よい。
さっきまでの不安や恐怖が嘘のようだ。


ちょっとだけなら、寝てもいいだろう。
首を少し下に向けてゆっくり目を閉じた。
頭がぽーっとして、風の音が聞こえなくなった時。

硬い、鉄のようなものが頭に当たる。

「動くな。」

低くて重い声。眼が冴える。
眼の前の窓から、反射で見えるかもしれない。
顔を少しずつ動かす。

「動くな言ってんだろ。」

何かが、眼にもとまらぬ速さで窓に向かって飛ぶ。
大きな音を立てて、ガラスにひびが入る。

もしかして、拳銃…?
血の気が引いて行くのを感じる。
ココは本当に学校なのか?

「5秒以内に名前を言え。
 さもないとその頭ブチ抜く。…5…4…」

まだ温かい4月なのに、汗があふれ出て止まらない。
これマジでヤバい…。頭の中真っ白だ…。

「…3…2」

「俺は…たかはし、…!」



カウントダウンが止まる。…俺、生きてる?
背後にいる『誰か』が笑っているのが聞こえる。

俺はすかさず振り向いて、
拳銃を持っている手に向かって蹴りを入れる

拳銃が床に落ちる音がする。
拳銃を持っていたのは…黒い髪の少年。
少し、北条と似ている。

「悪かったな、こんなことして。」

少年は蹴られた手をさすっている。
拳銃をもっていたとはいえ、まだ子供だ。
蹴ってしまった俺にも罪はある。

「俺も、ごめんな。
 痛かっただろ。急にやったんだし…。」

自分が悪かったらすぐに謝る。
これは空手の先生からの言いつけ。

『平気』とでも言うかのように
少年はにこっと笑い、俺の顔を覗き込む。

「はぁ、聞いてた通り男前だな。」

ほんとに、この子が拳銃を持っていたのだろうか。
今までの緊張の糸が途切れて、どっと疲れが増した。

「わいにも見せてや!」

関西弁の少年が屋根からひょこっと顔を出している。
空気が一気に和やかになる。
俺の心臓はまだバクバク言ってるけど…。

「おぉー!ホンマや!
 紫堂の言うた通り、男前や!」

汗が少しひく。『紫堂』と確かにそう言った。
やっぱりこの学校には北条がいるんだ。
心に詰まっていた何かがスッ通る。



—…『高橋先生じゃないとだめなんです。』

坂出中の校長が言ってた言葉の意味が分かった。
半年前の『あの事件』の事が頭に浮かぶ。