ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師ト死神様 ( No.7 )
日時: 2010/03/29 15:22
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第四話  『人形』

      ○

『運命の歯車』はどこで狂ったのだろう。
今、その原因を探したって仕方ないのだけど。
それでも考えてしまう。

厄の子…、『アタシ』は小さい頃からそう言われた。

だから、あの人と結婚する時誓ったの。
アタシが子供を産んだら
その子を一生幸せにするって…。


『かーさん、かーさん。
 髪の毛結んで。……』


—…それなのに。

どこで狂ってしまったのだろう。

アタシの可愛い3人の子供たちを、
どうして見放してしまったのだろう。
どうしてあの時守ってあげれなかったのだろう。

後悔が、アタシを責める。

あの子たちの事が心の中で消えた事は1度もない。
それほどアタシは、思っているのに。
守れなかったアタシの弱さ。


—…アタシを責めてもいいよ。
それでもアタシはアンタたちの事を思い続ける。

特に一番心配なのは、末っ子の愛娘。
昔はチビだったけど、もう大きくなったよね?…

兵隊の服を着たウサギの小さな人形を
アタシは優しく握りしめた。

扉の向こうから、ギシギシと誰かが来る音がする。

「またココにいたのか。」

呆れた顔で『ルカ』が言う。

「いいじゃない。
 アタシだって、思い出に浸りたい時があるの。」

「思い出?…ここにはお前の写真や
 家族の写真が一枚もないじゃないか。」

今度はアタシが呆れて見せた。

「写真なんて必要ない。
 大切なのは『記憶』、それだけ。」

写真を眺めたってみじめになるだけ。
記憶だったらいつか忘れて無くなるから—…。

「だから、必要ない。」

アタシはその部屋を出た。

「…思い出浸りはもういいのか。」

黙ってうなずいた。
そして強くその部屋の扉を閉めた。

「これでいいのよ。」

「…そうか、じゃあ行くぞ。『北条』—…」



アタシは『北条葵』。
自分の子供を捨てた、酷い女。——…


        ○

「コレが先生が担任するクラスの出席簿です。」

「ありがとうございます。えっと…執事さん?」

執事さんは一瞬驚いた顔をした。
でもすぐに笑顔に戻った。

「まだ名前言ってなかったですね。
 私、『五十嵐・F・輝馬』って言います。
 
 隣にいる関西人は『福田春』。
 もう片方の生意気小僧は『後藤純』。」

純と春は改めて一礼した。
俺も軽く礼をして応える。



出席簿を開けてみると『総生徒数3名』と
堂々と上の方に記入されてあった。

後藤純 福田春 北条紫堂 …

確信した。やっぱり北条はココの生徒なんだ。
だから坂出中の校長は…。

「なぁ、髙橋さん。
 ポケットからなんか落ちたで。」

春は高級品と扱うように丁寧に落し物を拾い上げる。

「ウサギの…人形?
 俺、その人形持ってきた覚えないけど…。」

でもどこかで見た事がある。
ずっと昔…。俺がまだ中学生だった頃に。

「じゃあ、なんで髙橋さんのポケットに…?
 誰かとぶつかって入ってしもうたんちゃう?」

「そんな映画みてぇなことあるわけねぇだろ。」

『誰かとぶつかって』。
そういえば、今朝北条とぶつかった。
あのとき入れ違った…?

「…北条のかもしれないな。」

ウサギの眼は赤く、悲しそうだった。
兵隊のような服を着ていて、拳銃まで持って。

その姿は俺が昔見た人形をそっくりだった。


—…何があったんだっけ。


       ○

無い、どこを探しても見つからない。
バックのサイドポケットに入れていたはずの
『兵隊ウサギ』がない。

足が悲鳴を上げている。
きっと朝から1日中走り続けていたからだ。

「くそ…っ、一体どこに…」

ゾクッと背後から寒気がした。
振り返ろうとしても遅かった。『金縛り』だ。

「『ざくろ』だな、何の用だ。」

眼の前に白色の霧が現れる。

「ぁはは、酷ぃ言ぃ方。そぉやって
 イジヶてれば誰ヵが助ヶテくれると思ってるの?」

『機械で作られた声』というか。
こういう声は苦手。耳が痛い。

「いじけてなんかない。私はアンタが嫌いなだけ。」

霧がどんどん濃くなっていく。

「さてゎ人形を探してるのネ。
 アノ人形のどこが可愛ィの?」

声がだんだん近づいてくる。

「…私があの人形を大切にするのは
 可愛いとか、そんな簡単な理由じゃないわ。」

「じゃァ、何なの?」

「…言わない。」

声も、足音も聞こえなくなった。
きっとざくろも諦めたんだ。

金縛りが解ける。
スッと力が抜けて地面にへたり込んでしまった。

ふっと時計を見ると13時を過ぎていた。