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Re: 熱血教師ト死神様 ( No.8 )
日時: 2010/03/29 15:17
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第伍話  『アヤメ』

      ○

「…そろそろ先生の部屋にいきましょうか。」

この学校から俺の家まで何時間もかかる。
それを毎日通勤したら過労死してもおかしくない。
だから学校の寮に泊めてもらうように頼んだ。

「先生の荷物は、宅配便で今朝届きました。
 部屋に置いているので後で整理しておいて下さい」

五十嵐さんは『まだいるのかよ。』とでも
言うかのような目で春たちを睨んだ。

「じゃ…じゃあ、俺たちこの辺で。」
「またな、髙橋さんッ。」

そそくさと二人はこの部屋を出て
逃げるように走って行った。

「クソガキっ!てめーらは勉強でもしとけっ!!」

五十嵐さんの一声は廊下に響き渡った。

さっき…、俺が初めて五十嵐さんに会った時の
第一印象はやさしくてまじめな人、だったのに。
今の五十嵐さんはなんだか『鬼』のようだ。

「さぁ。行きましょうか?」

天使のような笑顔で五十嵐さんは振り返る。
体がびくっと一瞬震えた。








ドアを開けると、俺一人で使うのが
もったいないくらい広い部屋が、そこにあった。

「うわぁ…。」

「この部屋は好きに使っていいですよ。
 こっちが洗面所で、向こうにお風呂が…」

部屋の説明より、窓からの景色が気になった。

竹がたくさん生い茂っていて、
奥の様子がよく見えない。でも竹と竹の間に
かすかに建物のようなものが見えた。

あの大きさ、形、…どこかで見た事がある。
小さい頃、どこかで。…あれはまるで

「寺…?」

呟いた瞬間頭に激痛が走った。

『そう、アヤメって言うんだ。』

『うん。秀彦はこのお寺によく来るの?』

『まぁね、ランニングのついででお参りしに。』

『…アヤメが…怖くないの?皆言ってるよ。
 アヤメに近づいたら、死んじゃうんだ…って。』

『死ぬ?どうして…』

『アヤメ、死神なの…。』


頭に大きな岩がぶつかったように痛い。
俺は頭を押さえこみ座り込んだ。
 
異常を感じた五十嵐さんは
すぐに俺の近くに来た。

「せ…先生っ!?」

痛くてたまらないのに
お構いなしにまだあの声が聞こえる。

『アヤメ、ずっと一人なの。
 お母さんがアヤメのこと、ぶつの。』

『アヤメちゃんは一人で平気?』

『平気だよ。うさぎの人形があるし、それに…』

—…お兄チャンとズっとここで永遠に居られルから。

その、『最後の声』は機械で作られたような声で
俺の体をむしばんでいく感じがした。

「先生、しっかりしてくだ—…」

目の前が真っ暗になった。