ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師ト死神様 ( No.11 )
- 日時: 2010/04/06 09:57
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第六話 『恐怖』
○
徐々に空が暗くなっていく。
気がつけば鳥の鳴き声も聞こえない。
自分たちの巣に帰ったのだろうか。
自分の家族に会うために精一杯羽をはばたかせて。
鳥がうらやましい。
一人で考えていると、どんどん夜が近づいてきた。
私は夜が嫌い。なんだか怖い。
前にダチとした怖い話とか、
そんな嫌な事が勝手に蘇るというか。
だからあんまり夜更かしはしない。
私はまっすぐ学校にも戻る。
靴箱にお気に入りの黒い靴を投げ込んで、
素足で廊下をひたひた歩く。
五十嵐しかいない職員室。
使った事がない視聴覚室。
消毒液しかない保健室。
よく考えれば呆れた学校だ。
たくさん部屋があってもほんの1部しか使わない。
いつか教育委員会とかに『税金泥棒』て
言われるんじゃないかなって思う。
そんなこと考えているとワクワクする。
大勢から批判されて、『仲間』と一緒に逃げだす。
心霊現象は嫌いだけどこんなスリルは嫌いじゃない。
私の脚が軽やかになる。ほんと楽しみ。
何も変哲がない校内に一瞬
冷たい空気が漂っているのを感じた。
その先には誰も使っていないはずの寮。
真っ先に思った。お化けがいる?
体温が一気に下がっていくようだ。
私はそのドアを見つめたまま固まってしまう。
あまりにも怖くなってその空気を止めようと
ドアを押したが動かない。
「さいあく…」
誰かがきっとむこうからドアを引っ張って…
ドアと壁の間から覗きこんできて…
私の被害妄想はそう長くなかった。
閉まらない理由が分かったから。
「あ!」
驚きのあまり声を出してしまった。
私の探していた『兵隊ウサギ』。
ドアの型が付いているけど気にしなかった。
すぐにそれをバックのなかに入れる。
もう無くしてたまるか。
ついでに部屋の中に入ってみる。
電気の光がまぶしい。
「北条、お帰りなさい。」
五十嵐は小さな声でそう言った。
「何やってんの、こんなところで。
まだ4月なのにクーラー効きすぎじゃない。」
私もつられて小さく言う。
「ちょっと、緊急事態。
先生が倒れちゃってさぁ…」
「先生?」
予想はついていたけど五十嵐の後ろを覗きこんだ。
汗だくで寝てるあの熱血教師。
「なんであいつがこんな所に。」
呆れた。
わざわざ遠いところからきて早速ダウン?
ばかばかしくて、『高彦さん』らしい。
「そうだ、北条。
あのウサギ人形…」
「知ってる。
ドアの所に落ちてた。もう拾った。」
私は素顔で手短にそう言う。
でも五十嵐は首を振る。
「そうじゃない。それ、先生のポケットの
中に入ってたんだ。偶然過ぎると思わねぇか?」
「やめてよ、そんな話。今しないでよ。」
苦笑いで私は答える。
でも心の中では少し考えている。
ほんと、偶然だね。
「そんな事より、この人は。」
高彦さんを指さす。
「軽い貧血か脱水症状。
あの時紅茶出さなかったから…。」
五十嵐は少し後悔した顔で言った。
その様子に思わず笑ってしまう。
「はは、この人いっつも何かあったら脱水よ。
体育祭の時も文化祭の時も…100%倒れてさ。」
そんな私を見て五十嵐は笑う。
私が言っている事にじゃない。
「…何?」
「いや…別に。」
「何よ、気になるじゃん。」
しつこい私にあきれたか、
五十嵐はすぐに口を開く。
「いや、なんか…。
先生の話してる時の北条がさ。
楽しそうだな…ていうか。そんな感じ。」
すぐに笑うのをやめるのは難しい。
顔が引きつりそうになる。
「…気のせい、いたって普通よ。」
高彦さんの足が動く。
もうそろそろ気がつきそう。
「…おい、もう行くのか。
人形のお礼言ったほうがいいんじゃ…」
「なんでお礼なんか…。
別に高彦さんは何もしてない。偶然でしょ?」
わがまま言ってごめん。
心の中で呟くと私は、逃げるようにその部屋を出た。
「怖い」、ただそれだけの理由。