ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師ト死神様 ( No.14 )
- 日時: 2010/04/07 15:25
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第七話 こっち
○
気がつくとそこは夕焼けが眩しい小道だった。
俺の手をぐいぐい引っ張っている女の子もいる。
その子の顔は黒くぼやけて見えなかった。
笑っている口はぼやけていないのだけど。
「こっち、こっち。」
女の子は俺をせかす。
「…誰?」
「こっち、こっち。」
女の子は俺の質問に答えずに前へ前へ進む。
この道を通った事はないが先には行きたくなかった。
「…俺、そっちに行きたくない。」
「こっち、こっち。」
「いやだ…行きたくない…」
「こっち、こっち。」
「——…離せ!」
女の子の手を振り払う。
掴まれていた手は黒いあざに染まっていた。
「…お前、誰なんだ…。」
俺の質問に待ってましたとばかりに
彼女は口を開く。
「私はアヤメ、私はアヤメ。
アナタに恋する女の子。」
ズキズキとあざが痛む。あざを見つめていると、
手が今より一回り小さくなっている事に気付く。
「…これ、昔に戻ってる?」
「私はアヤメ、私はアヤメ。
昔のアナタのお友達。」
そういうと女の子は近くにあった仏像の後ろから
長い木の枝を拾い、地面に何か書き始めた。
—…『殺』める『女』、『殺女』。
「…これは…」
殺女はニヤリとこちらを向く。
「私は殺女。私は殺女。
アナタを殺める女の子…。」
—…。
「…先生?気がつきましたか?」
俺はゆっくり目を開ける。
「…あ…俺今まで…」
「覚えてないんですか?
貧血で倒れたんですよ。」
覚えているのは殺女のことだけ。
それより前の事なんて全く思い出せない。
遠くを見つめるを眩しい朝日がきらめく。
「—…やば、今日授業なんじゃ…!?」
「そうですけど、体壊れますよ。」
俺はジャージのままで倒れていたようだ。
シャツがぐっしょり濡れているが
初日早々遅刻するわけにはいかない。
そのままの服装で寮を出る。
「あ、高彦さんや。」
「服昨日のままじゃん。」
全速力で走っている中庭に純と春の二人組がいた。
「おはよ」と軽く挨拶をして通り過ぎる。
五十嵐さんに教室の位置を教えてないのに気付く。
「…やべ—…致命的ミス。」
十字路の廊下のど真ん中で立ち止まる。
完璧に迷った。
『こっち、こっち。』
さっきの声だ。背後から聞こえる。
俺は冷静になる。もう怖くなんかない。
『こっち、こっち。』
気にするな。どうせ『殺女』だ、
またさっきみたいに倒れる。
『こっち、こっち。』
ゆっくり振り返る。
黒い霧の中に白い手が伸びる。
俺は少し後ずさった。
お構いなしで手は伸びる。
「ッ来るな!」
手がピタリと止まる。
そして左に指差した。
『こっち、こっち。』
手が襲いかかってくるのではないか。
気にしながら左を向いた。
霧がなく怪しげがない。
俺は眼を凝らし、もう一度指の先を見る。
指が差していた先は、俺の探していた教室だった。
「お前、教えてくれた…—。」
前を向くと霧が消え白い手も消えていた。
俺はしばらくそこで固まった。…幻覚?
「高彦さん、なにしてん?」
春の声が聞こえた。
俺は返事をして教室へ駆ける。
「殺女…?−−」
俺は呟いた。
すると、返事が聞こえた気がした。