ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師ト死神様 ( No.17 )
- 日時: 2010/04/28 15:40
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第拾話 林檎
○
眼の痛みが治まる頃には
もう北条の姿はなかった。
俺はしぶしぶ教室へ戻る。
「教師がいきなり授業放棄してどうすんだよ。」
教室に入っての第一声は純だった。
反論する気力もないし、しようとも思わなかった。
「…悪かった、…でも俺北条が心配で…」
「なんか…残念や…」
春は窓の外の景色を見て呟いた。
「新しい先生が…こんな…生徒思いやなんて…
コレっぽっちも思ってなかったわぁ。」
意外だった。批判されると思っていたのに。
純も春の発言に共感したようだった。
「まぁ今まで来た先公はビビりで
すぐに異動届けだしたしよお…。
俺たちの力を見て怖がらないのは
多分、高彦さんが初めてだろな。」
批判を覚悟していた俺の頭は混乱した。
でも、まんざらでもなかった。
「紫堂ならきっと大丈夫や。
俺たちよりも強いし、心配せんでもええよ」
春の言葉を聞いて安心した。
俺はその言葉を信じて出席を取り始めた。
○
昼の12時前。
記念すべき一日目の授業はすべて終了した。
授業といっても手紙配ったり、総合学習だったが。
「あ、北条の手紙…どうしよっかな…」
「俺が持ってく、部屋近いし。」
俺はそう言って
高彦さんが持っている手紙の束をひったくった。
「ありがと、純。」
高彦さんは笑顔でそう言った。変なやつ。
前の先公はひったくったら、非常識だって怒るのに。
俺はすぐに北条の部屋に行かず、
少し寄り道をした。
中庭に咲いている白い花を抜いて、俺は急ぐ。
部屋の前に着くとノックもせずにドアを開ける。
「具合はどうだ?熱は下がったか?」
俺の妹『後藤凜』は呆れた顔で言った。
「もぉ、お兄ちゃん。
入るなりそれはないでしょ?」
「癖だ、癖。お前薬ちゃんと飲んだよな?」
凜は起き上がり、自信ありげな顔でうなずいた。
5年前から、こいつは病気で寝たきりだ。
都市伝説で有名な『神呪病』だと医者は言う。
そんなの嘘だ。凜が神呪病なのも神呪病の存在も。
「お兄ちゃん、どうしたの?
学校で何かあったの?大丈夫?」
「いや、別に…。」
俺は花瓶の隣にある大きなかごから林檎を取り出す。
ポケットからナイフを取り出し、皮をむく。
「あー、またナイフを学校に持って行って…」
「うるせぇな。いちいち、いちいち…」
かすかにドアのノック音が聞こえた。
「こんにちは、凜ちゃん。」
紫堂の姿を見て凜は笑顔になる。
「あ、北条先ぱ…」
凜は何かが抜けたかのように
フッとベットに倒れた。
「凜!」、俺は思わず声を上げる。
「だ…大丈夫。ちょっと目まいが…」
凜は手を自分の額にあてた。
その様子を見て紫堂は凜の近くへ行く。
「無理しないで、凜ちゃん…。」
凜の頬は林檎のように赤かった。