ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

熱血教師ト死神様  ( No.18 )
日時: 2010/04/30 15:20
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)

第拾壱話 りんがふたり

凜の様態が落ち着くと、
俺は皮をむいた林檎を皿の上に載せ、
凜の枕元に置いた。

「ほら、食えよ。」

「いらない、ほしくない…。」

紫堂は凜が体調が悪いのではないかと心配している。
だがこいつが元気がないのは体調の問題ではない。

そろそろ面会時間のタイムリミットだ。

「じゃあな、…凜。」

面会時間は10分。
あのチビ五十嵐にきつく言われている。
凜の様態が悪くならないために、
俺はその『決まり』だけは守る。

ドアに手を伸ばす。
それに気づいた凜は紫堂の服を強く握る。

「先輩、行かないで!…」

紫堂はゆっくり重い口を開いた。

「…ごめん、凜ちゃん。私も行かなきゃ…。」

紫堂の口からその言葉が出た瞬間、
服を握る凜の手はスルスルと落ちて行った。

「先…輩…。」

「凜、わがまま言うなよ。
 紫堂も忙しんだから…な、また明日だ。」

凜はうつむいたままうなずいた。
分かってくれよ、俺だってずっとここにいたい。

申し訳なさそうな紫堂の背中を押して、
俺たちはこの部屋を後にした。

「あれで、…よかったの。」

しんとしている廊下で紫堂は呟いた。
俺は黙ったままだった。応える事が出来ないから。—


     ○

「はぁ…これでよし。」

最後の書類を、教卓の上に投げつける。
今日の仕事全て終わった。

俺は急いで教室の戸締りをし、廊下を走った。
美由紀に…彼女にメールしないと。

「廊下は走っちゃだめですよ、せんせ…」

その声が聞こえた瞬間、
空気が冷たくなっているのを感じた。

振り返ると横ポニの目つきの鋭い女子が一人。

「せんせ、こんにちは。」

「あの…どちらさんで?…」

彼女は髪をなびかせた。
その髪の色は俺の教え子である純に似ていた。

「…せ、生徒以外の校舎の立ち入りは」

「あら、お気づきになりません?
 私は後藤純の姉である『後藤麟』デス。」

「ごとう、りん?」

言われてみれば、
目つきや声が少し似ている気がした。
だが騙されまいと俺は、後藤を疑った。

「でも出席簿にアナタの名前はなかったですけど。」

「やだ…五十嵐さんってば。
 ちょっとサボっただけでクラスから外すなんて。」

ニヤリと後藤は笑う。
俺はあいまいに返事をした。

「先生が優しそうでよかった。
 それでは私はこの辺で…、さようなら。」