ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師ト死神様 ( No.20 )
- 日時: 2010/05/02 09:37
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第拾三話
○
ひんやりとした扉を開けると
俺はゆっくり部屋の中を覗き込んだ。
「凜ちゃん、元気にしとる?」
「うん、元気だよ。
久しぶりだね。春君。」
俺は安心してそこにあったパイプ椅子に腰かけるのを
凜ちゃんは静かに見送って、俺に尋ねた。
「ねぇ…お兄ちゃん、みた?」
「純の事?見てないわぁ…。」
がっかりしたような顔で凜ちゃんはうなずく。
どないしたんやろ…。
「なんかあったん?」
「…べ、別に、大丈夫だよ!」
あわてて凜ちゃんは言うと、
林檎の乗った皿を差し出してきた。
「コレ、兄ちゃんがむいてくれたの。
でも一人じゃ食べられなくて…春君に全部あげる」
俺は林檎に手を伸ばす。
林檎は放っておくと色が変わるって聞いたんやけど、
この林檎はまだ色が変わってない。
つーことは、純はさっき来たばっかりなんや。
「春君、どうしたの?林檎嫌いだっけ?」
「そんなことないで!
ちょっと考え事してただけや。」
俺は急いで林檎をたいらげた。
「…春君、お兄ちゃん元気にしてる?」
冷めた顔で凜ちゃんは言った。
「元気というか、…
いつもどうりやで。こないだなんか、——」
アラームの甲高い音が聞こえる。
面会時間10分、もう終わってしもうた。
「…ごめんなぁ、凜ちゃん。もう帰らんと…。」
「…そか、…忙しいのに、ありがとう…。」
凜ちゃんの暗い顔に後ろ髪をひかれながら
沈黙した空気の部屋から出た。
凜ちゃんは純に逢いたいんや。
探して逢わせてあげたいけど…どこにおるんやろ。
…
手当たり次第に探してみても、純は出てこない。
「純——!…」
俺の声はむなしく空へと溶けて行った。
「馬鹿純、アホ純、どこにおるん——!」
そう叫んでやった。
大事な時におらんのんやもん。
するといきなり強い風が吹いた。
その風の正体はきっと
風神の後継者である純の仕業や。
根拠はないけど、そう思った。