ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 熱血教師ト死神様 ( No.22 )
日時: 2010/07/17 14:01
名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)


第拾伍話

      ○

思えば私、いつもそうだった。
いつもお兄ちゃんに迷惑ばっかりかけてた。

血がつながっているのに、
『お姉ちゃん』と呼ぶのを許してくれない麟さん。
体が弱い私を見放した、厳しいお父さん。

家族の中でただ一人味方してくれたのは、
お兄ちゃんだけだったね。
いっぱい迷惑かけたね…。

いつかお兄ちゃんを安心させるように
強い人間になれたら。…


花瓶から顔を出している薔薇が、
ぼろぼろと堕ちてゆく。

「あ…薔薇が!…」

私はベットから起き上がった。
すると何かが体の奥からこみ上げてくるのを感じた。

「…っ!」

必死で口を押さえる。
急いで棚の上にある洗面器に手をのばす。

意識がもうろうとして、眼の前がぼやけてゆくせいで
私は誤って、洗面器を落としてしまった。

…『自分で拾うのよ。』

自分で自分に言い聞かせた。
こんなこと出来ない奴に、
お兄ちゃんを安心させる事なんでできっこない。

堕ちるようにベットから降りた。
汗が頬をつたる。


病室のドアが開く音がした。

「凜ちゃん!」

…北条先輩?
振り向こうとすると、目の前が真っ暗になった…。


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気がつくと、いつものように
古びた天井が私の目に映っていた。

「ぁ…北条せんぱ…」
「よかった…気がついたのね?」

私が起き上がろうとすると、
先輩は私と止めた。

「無理しないで…。
 よかったら、何があったか話してくれる?」

私はうつむいて、ぽつぽつとはなした。

急に吐き気がしたこと。
意識がもうろうだった事。…

お兄ちゃんに楽させるために…というのは
あえて言わなかった。

『お前はグズだから、何もできない』

麟さんの声がよみがえる。
なんだか無性に泣きたい気分。

「先輩、ありがとうございました。
 もう大丈夫なんで…。迷惑掛けてごめんなさい。」

「でも、ほっとくわけには」

「大丈夫ですから!」

私は叫んだ。
「そっか…。」と先輩は呟いて、
静かに病室を後にした。

涙目で花瓶の方をみた。
赤いバラの花びらは血のように赤かった。