ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 熱血教師ト死神様 ( No.25 )
- 日時: 2010/08/03 09:34
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第拾八話 沈黙
○
「紫堂!急にどないしたんや!」
俺は紫堂に腕を引っ張られながら、叫んだ。
「別に。」
あっさりと、紫堂は答えた。
すぐさま紫堂は「そんなことより」と話と続ける。
「凜ちゃん…!私たちがいない間に何が…」
俺は、自分の足元に目を落とした。
『純の事』を言うために
凜ちゃんの病室に入ったんやけど、
どこにも凜ちゃんはいなくて、
あったのはガラスの割れた破片。
「…どないしよう。」
「ほっておけ。」
さっきみたいにあっさりとした返事が返ってきた。
それは、流石に酷すぎる。
「紫堂!そんな言い方…」
紫堂は首を横に振る。
まさか、と思って振り返った。
そこには、包帯だらけの純がいた。
「純!お前、その傷…!」
俺はつい叫んでしまった。
それでも純は顔色ひとつ変えなかった。
「今は放っておけ。様子を見るんだ。」
「んなこといったって、凜ちゃんは…」
「黙れ!向こうがどこにいるか分からねぇ限り、
こっちは手出しできねぇだろ!分かんねぇのか!」
一瞬何が起こったか分からなかった。
純の目が、鬼のようだった。
「…いいから、ほっておけ。今は、それしか…」
純は、落ち着きながらそう言った。
それは自分に言い聞かせているようだった。
しばらくの沈黙が続いた。
そこから逃げるように、純は冷たい廊下を歩く。
「焦っているのよ。」
紫堂は口を開く。
「きっと、純が一番焦ってる。
私たちが、純を助けてあげないと。」
そうだけど。
あいつは一人にしたら何するか分からない。
昔、小学校の時。
やたらちょっかいだしてくる他校の奴がいて、
それに純は一人で殴りこみに行った。
俺たちが目を離したすきに。
「…あいつは、一人で荷物背負い込みすぎるんや…」
小さな、蚊みたいな声で俺は呟いた。
「え?」と紫堂は聞き返したけど俺は首を横に振る。
廊下に響いている足音は、静かになっていく。
—————
○
凜ちゃんがいなくなって、次の日。
純も、私たちも何もなかったように教室に来た。
何があったか知らないのは、『あいつ』だけ。
やたら元気なのが、耳に響く。
1時間目は数学だった。
あいつは英語科の先生だから、
数学が苦手なのは知っている。
黒板に数式が並ぶ。
私たちはそんなものには興味無かった。
春は下を、純は窓の外を、
私は時計の針を見つめていた。
「じゃ、コレ分かる…人…。」
私たちの沈黙に、流石に気付いた『先生』。
先生が振り返った瞬間、そいつも黙りこくった。
時計の秒針は一周した。