ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

そういえば・・・② (不思議な話) ( No.3 )
日時: 2010/08/18 10:00
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

「あれ……」

 天井しか目に入らなかった。
 さっきまで見ていた景色とはぜんぜん違っていた。
 夢……を見ていたのかな。皆が居なくなっちゃう夢。もう、何回目かなあ。前にも見たことがある気がする。
 首を触ってみるとへんな汗がべっとり流れ出ていた。ベトベトしてて気持ち悪いな。顔洗ってこようかな。
 あれ、今何時だろ。兄さんはまだ帰ってこないのかな。
 後ろを振り返って壁にかけてある時計を見るとちょうど六時になるところだった。
 家の中は相変わらずシーンとしていた。

 カシャン。

「わっ!」

 台所から食器が崩れた音だった。

「び、ビックリしたぁ〜」

 あまりの不意打ちに心臓が跳ね上がってバックバック動いていた。

 赤いお顔のお日様が窓から差し込んでできた影が不気味に思えた。自分の影もまた無意味に怖く感じた。影が今にも動き出しそうな気がしてしまったからだ。
 空は西に沈みかけているお日様のおかげで真っ赤に染まっていた。

「……ヘンなの。ひとりしかいないのに、なんでこんなこわいんだろ」

 怖いというよりも、気持ち悪い感じ。
 そう思ったそのとき、ピンポーン。呼び鈴の音がした。

「あ! 兄さんだ! かえってきたんだー」

 ばたばたとかけ足で玄関に向かった。はやる気持ちのせいでちょっとドアにぶつかった。ちょっと焦りながらも鍵をあけると、そこには予想したとおり兄さんが立っていた。

「Welcome home back! 兄さん! 寂しかったよー」

 勢いに任せて飛びついたあたしに兄さんはたぶんやれやれとした顔(そのときの兄さんの表情は見れなかった)で頭をなでてくれた。

「ご飯にする? あたし作るよー」

 兄さんが小さく頷いて、部屋に入るとソファーに座った。
 あたしはキッチンにむかう。兄さんが好きなキャベツの芯とベーコンのかき揚げを作った。饂飩の麺は固ゆでだからすぐに茹で上がる。かき揚げを乗っけてみじん切りの葱をかけて出来上がり。おかずに昨日の揚げ茄子のマリネも温めた。あたしもお腹すいたから二人分だよ。
 それらをお盆に載せて兄さんが待つリビングに向かった。

「兄さんーできたよー!」

 あれ? っと思った。
 部屋はシン……としていて、部屋を見渡すと兄さんはどこにも居なかった。

「兄さん? どこに行ったの? 着替えに行ったのかな? トイレかな?」

 お盆をテーブルに置くと部屋の中を少し歩き回った。部屋に居ないのを確認すると自室の二階にも上がってみた。ひとつひとつ部屋のドアを開けて確認していった。
 けれど、どの部屋もやっぱりシーンとしてて、誰もいる気配がない。
 兄さんは、どこにも居なかった。トイレにも居なかった。リビングに戻ってきても、やっぱり居なかった。

「おっかしいなーどこ行ったのかな〜うどんがのびちゃうよぉ……あ、もしかしてチューハイかいにいったのかも! ちょうどきれてたし!」

 あれ、でも昨日缶チューハイを箱買いしてた気がする……。

「うー……さきにたべちゃおうかなーおなかすいたよー」

 あたしが迷っていたとき、

「ニーナ!」

 あたしは悲鳴を上げる前に飛び上がった。だって玄関から兄さんの叫ぶ声が聞こえたんだもん。しかも、この呼び方、お、怒られるときのあれだ……。

「なにぃ?」

 ドアを少し開けておそるおそるそこからちょっとだけ頭を出した。あぁ、やっぱり怒ってるぅ……。

「鍵が開いてたぞ! 戸締りはしっかりしろと、言っただろ!」
「え〜なにいってるの〜あたりまえじゃないさっき兄さんがかえってきたときカギあけたんだから」
「は? お前こそなに言ってんだ。寝ぼけてんのか? 俺はたった今帰ってきたんだぞ」
「へ?」
「なんだよその顔は」
「じょうだんやめてよ、さっき兄さんかえってきてあたしのあたまなでてくれたじゃない。それでうどんたべたいっていったからいまうどんゆでたんだよ。なのに兄さんかってにいなくなっちゃってさ、うどんとマリネさめちゃったよ。なのに、げんかんでそんなこというなんてヘン!」
「おい、ちょっと待て。変なのはお前だろ、」

 そう言うと怒った顔が一変して、兄さんが心底困ったような顔をした。というより、混乱しているようだった。

「……ヘンなジョークじゃないの?」

 ミシリ、カタン。

 今度は家鳴りがした。その音はさっきの不気味さを思い出させた。同時にさっきから感じている違和感にも気づいた。

「兄さん」
「ん?」
「カギ……もってる?」
「当たり前だ」
「じゃあ、ベルなんてならさないよね」
「……?」
「なんでもなーい。うどんたべよー。あ、でもさめちゃったからあたためなおすねっ」

 よくよく考えたらそうだ。普通、自分の家に入るのに呼び鈴ならさないもん。
 あのとき家に入れたのは、あたしの兄さんじゃなかったんだ。兄さんが兄さんじゃなくて、あたしはさっきまでホントはひとりだったのかなあ。寝ぼけてたのかなあ。

 リビングに置きっぱなしだったごはんを片付けようとお皿に手をかけた。うどんが片方だけ、ちょっと量が少なくなった気がしたけど、やっぱり寝ぼけてたんだと思うことにした。
                                                               (終わり)