ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

1。  ( No.2 )
日時: 2010/03/30 16:10
名前: 時雨 ◆fpcvJMKcxg (ID: LUfIn2Ky)

(それでは、ぼくの名は……)


「…行け。我が「嫉妬」よ」
魔王は自らの座る椅子の隣にいた影に行き先を示すと、大きな椅子に身を沈めた。
影—「嫉妬」と呼ばれた大蛇は示された方向に体を動かした。
蛇が闇に消えた数秒後、聴こえる恐怖を含んだ断末魔。
「は…はは…あっははははははははは!」
それを聞いた少女は狂ったように笑う。
——嗚呼、人間の悲鳴の何と美しいこと!
私の世界で消えた者の事などどうでもいい。私は全てを壊すために生まれたモノだから、その通りに壊してゆけばいいだけなのだから。
「くく……さあ、ここはもう終わった。外界にでも行くか。「召使」」
「……はい」
彼女が呼んだ「名前」に、隣にいた影が答えた。
まだどこか幼い、でも、少女と言うには少し低い、少年の声。
僕は彼女の鏡写しだから。彼女と対等の存在になろうとは思わない。でも……
ただ、君がそこにいてくれればいいんだ。
そうして、主と同じ姿の召使は今日も光を求めてさ迷う。
その先に見えたのは、闇か、絶望か……
それは、遠い昔か、遥かな未来か。はたまた現在の事なのか。
それを知る者は、この世界にはいない。それでは、この物語は何と呼ぶべきなのか。

*


「どうして、変わってしまったの?」
そんなのは知らない。気が付いたらこうなっていたんだ。
仮令それが一番大嫌いな「偽善」と呼ばれるものでも、君を守っていたかったんだ。
だけど、その先に見えたのは———

「……お前も、そうなのか」
自分自身の黒い血と、自分を殺した少年の紅い瞳だった。
「……さよなら。偽善者」
崩れ落ちたヒトの身体を何も感じなくなった瞳で見下ろした。
僕が彼女の半身として隣に立ったのはどのくらい前だったか。もう覚えていない。
覚えているのは、僕が僕としていられるのはあの人がいるから、ということ。それだけ。
だけど僕がいくらあの人に光を届けたくても、あの人に光は似合わないんだ。暗い、何も見えない闇があの人には一番似合うから。
ああ、一つ言い忘れていた。
「僕のこと、誰にも言うなよ」
噂が広まったら、ここには来れなくなってしまう。仮令噂が広まったのが死者でも。 


(嗚呼、思い出した)

(ぼくの名は、「召使」)