ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 第1章・「ハジマリ」 ( No.5 )
- 日時: 2010/04/14 14:52
- 名前: 音 ◆BbBCzwKYiA (ID: LUfIn2Ky)
それは例えるなら、精巧な人形に似ていた。
恐らく、世界の全てを見つくしても、これほど綺麗な人形は存在しないだろう。……そう思わせるほど、その少女は美しかった。
しかし、人間離れした美しさがあるその顔に在るのは、優しい色ではなく、まるでこの世に存在する全てのモノを否定しているような、そんな色だった。それに気付くと同時に、その色が良く見知った何かに似ている事にも気付く。
———そうだ。冷たい闇の色。
「アイオニキス」と呼ばれるこの世界の「神」を示す聖書の話に依れば、それは破壊と死を表す闇そのものだった。
——そうか、だから。
あの人は、僕にあの人形のような少女を殺すことを命じたのか。
闇は邪悪なるもの。それはどこの国にも存在する定義だが、「アイオニキス」なるこの国の聖書にはその色が特に強かった。少しでも闇を持つものは殺せ、闇は人々を地獄へと陥れる魔物だと、そう伝えられているのだ。これは親が子供に言う一種の脅しにも似ていた。それは要するに、闇を持っていれば殺される。そう言う脅しも含めていたのだ。
誰もがそれを絶対だと崇める。神の啓示と呼び敬う。否、そうしなければ死んでしまうのだ。それを「闇」と呼ぶ「光の騎士」達によって。
——そんなの、ただの独裁じゃないか。
そう思う者は多かったのではないか。しかし、それを言ったものは全て殺された。「光」の名を騙る騎士団の手で。だから、殺されることを恐れて皆信じてもいない聖書の言葉に従う。今、「闇」と対峙している彼も、そんな嘘吐きの一人だった。
その中で、何故か一人だけ「教皇」を名乗る独裁者によって選ばれ、彼らの言う「巨大なる闇」をこの世界から消し去ることを命じた。——用は、その「闇」の統領を殺せ、という事なのだが。まだ成人してもいない自分にその任務は重すぎる。それを彼の独裁者に言っても、ささやかな拒否は受け入れてもらえなかった。
「この世界の勇者達は皆、お前程の歳で世界を救っているのだ。お前もそうなればいい」
それでは答えになっていない。そう言おうとしたのだが、半ば無理矢理王都を追い出され、ろくに準備もしないまま旅をする格好になってしまった。
そうして、大きな怪物を倒したり、暗い洞窟を探検したりして、やたらと下手な冒険物語の道筋を辿って行った結果、僕はここにいる。
やがて、何秒だったのか何分だったのか何時間だったのか解らない時間を経て、その少女が唇を開いた。
その容姿に良く似合う、凛とした美しい声だった。
「……お前も、偽善者か」
死を告げる言葉を予想していただけあって、この言葉には嘘吐きの僕にしては珍しく、正直に驚いた。
驚いた理由は、その「偽善者」という言葉が見事なまでに僕に当てはまっていたこともある。
そのまま黙っていた僕を見て、肯定と見做したらしく、彼女は無表情のまま「……そうか」と小さく呟くと、何処からか現れた暗い闇に消えた。
そして、彼女が消えた所を暫くそのまま見上げていると、何故か何も考えられなくなり、僕はその場で倒れた——らしい。本当のところはよくわからない。気が付いたらすっかり灰と化した村の真中にいたのだ。視界が暗転した後、どうなったのかは知らない。当然だ。何もないし、誰もいなかったのだから。
———ああ、そうか。
———村が、燃やされたんだ。
ヒトが沢山死んだ場所に居るというのに、僕は自分でも怖くなるくらいに冷めていた。
そして、いつの間にやら荒野と化した地平線へと歩き出す。
「時間制限まで、あと少し」
そんな声が、聴こえた気がした。
〜〜〜
勇者さん視点。