ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: つくられもの ( No.10 )
- 日時: 2010/04/06 09:59
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: Fi5I.X3D)
第3話『今日は今日、明日は明日の人達』
湊は、今日も温室へ向かいました。
温室でいつもラベンダーを見ている、少年に会いに。
温室のドアを開けると、黄色いじょうろを持っている、幽美がいました。
幽美は、ラベンダーに水をやって、じょうろを片づけてから、湊の方に歩いてきた。
「お、今日も来たのか」
「……うん」
湊はそう返事をして、近くにある椅子に座る。
そういえば、幽美は何故、いつもラベンダーを見ているんだろう?
湊は、そう思った。
幽美は、いつも、ラベンダーだけを眺めている。今日も、昨日も。
「ねぇ、兄貴……」
「ん?」
「なんで、いつもいつも、ラベンダーばっかり見てるの?」
湊がそう聞くと、幽美は哀しそうに笑った。
「ん、ラベンダーが好きな友達がいたから。そいつ、もうこの世にいないけど……」
幽美は、笑いながらそう言った。
……なんか、空気が重くなってた。二人なんて押し潰されそうなほどに。
こんな事になるなら、聞かなければよかったと、湊は後悔した。
「で、そいつの墓石に供えるために育ててるわけ……。解ったか?」
幽美がそう言って、湊の顔を見る。
湊は、コクリと頷いた。
その時、温室のドアが勢い良く開いた。
……あぁ、多分、このドアは寿命が短いだろう。
そう思いながら、二人がドアの方を見ると、金髪に蒼い眼の少年がいた。
湊は、この場の空気をぶち壊してくれた彼に感謝しようと思った。
「……どうした? グレン」
「え〜? なんか、僕等に任務が来ました。日本行って、秘宝探せって……」
幽美に、少年がそういう。
……あぁ、行っちゃうのね。
「行ってらっしゃい」
俺がそう言って手を振ると、金髪の少年は
「いや、行ってらっしゃいじゃないの。君も行く事になっちゃったの……」
と、申し訳なさそうにいった。
……博士、これ、いつ決まった事ですか?
せめて、何時間か前に、伝えてほしかった……。
そう思っている、悩んでいる湊は気にせず、二人は湊の手を掴み、温室から出ていった。
湊は、引きずられながら思った。
この時代、ここほど住みにくいところは、多分ないだろうと。