ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:  Lost.  ( No.1 )
日時: 2010/03/14 19:49
名前: 獅堂 暮破 (ID: lThj527p)

№01 「契約」

朝日が昇り、窓からは明るい光が射し込む。
季節は春。
桜の蕾も開き始め、日も高く昇るようになった。
「ん……。朝、か」
俺はカーテンの隙間から漏れた光で目を覚ました。
白い光が筋となり俺の顔を照らす。
「時間は……うっわ、最悪」
時計の針は午前五時を指していた。
普段より二時間も早く起きてしまった。
「二度寝も出来そうにないし。起きるか……」
俺は銀色の髪を手で梳きながら立ち上がった。
寝間着を脱ぎ捨て、ハンガーに掛けられた制服を着る。
そして寝室を後にし、一階へと下りていく。
普通ならここで母親や父親の声が聞こえるのだろうが、俺の耳にそれらしき音は入らない。
それもそうか。
両親は随分前にいなくなった。
いや。
消された、と言ったほうが正しいな。
俺は栄養剤を口に入れ、水を飲み込んだ。
最近朝食を取る気も失せて、こんな物ばかりを食している。
「じゃ、いってきます。お袋、親父」
俺は玄関に飾られた写真に向けてそう言い、家を出た。

時間はまだ五時半、これじゃあ学校も開いていない。
「どっかぶらついてくかな」
俺は学校へ向かう足を止め、逆の方向へ進んだ。
この先には海が良く見える公園がある。
昔、よく親子で来た思い出の場所とでも言うか。
波の音が耳に入る。
俺はブランコに腰掛けて目を閉じる。
耳に入るのは波の音と、自分の鼓動。
真っ暗な世界にそれだけがよく響いた。
「つまんねー」
ボソッと呟いたその声は波によって掻き消される。
ふと人の気配を感じ、俺は目を開いた。

「何がそんなにつまんねぇの?」

目の前でそう尋ねるのは同じ制服を着た男だった。
黄金色の髪が海の青と綺麗に重なる。
そして空と同じ色の瞳。
「お前、誰?」
俺は見た事もないソイツにそう訊いた。
「ん? 俺? 俺はちょっと訳ありの美青年、ってとこかな」
あ、なんかヤバそうな奴と口利いちまった。
青年はそんな俺の心とは裏腹ににこっと微笑む。
なんか、何言ってもきかなそうな奴。
そう思った俺は青年に問う。
「名前、何?」
そう訊くと彼は笑顔のまま答えた。

「久我 伊月(クガ イツキ)、君と同じ高校の二学年」

そう言った伊月の顔を俺はじっと見つめた。
よく見てみればこんな奴、いたかもしれない。
しかも同じ学年だ。
一度ぐらい会っていてもおかしくないか。
そんな事を悶々と考えていると後ろから肩に顔を乗せられた。
「名乗ったんだから、次は君の番でしょ?」
そう言われ、俺は「近いっ」と一喝してから答えた。

「日向 彪(ヒュウガ アヤ)、アンタと同じ二学年だ」

「女の子みたいな名前だね。彪ちゃん?」
あ、コイツ俺の地雷踏みやがった。
死刑、確定?
俺は地雷を踏んだ久我に投げ技を仕掛けた。
だが、奴に足を掛けられ一緒に地面へダイブ。
公園の一角に砂埃が充満した。
「てめっ、何しやがんだボケ!!」
俺は久我の顔に一発強烈な拳を打ち込んだ。
「いってー!! 彪こそ何すんだよ!!」
しかもいきなり呼び捨てとは良い度胸だ。
俺の事を呼び捨てする奴なんてそういないぞ。
「そろそろ、学校行く」
俺は地面に倒れている久我にそう一言残し、その場を去ろうとした。

「待てよ」

急に久我の真剣な声が耳に入った。
振り返ろうとした瞬間、腕を掴まれ引っ張られた。
「な、てめっ」
俺が再び拳を喰らわせようとすれば、久我は俺のその拳を易々と避けた。

「今の人生がつまんねぇなら、俺と契約しない?」

いきなり言われた意味不明な言葉。
俺は久我の真剣な瞳に完全に捕らえられていた。