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Re:  Lost. 【№04 up】 ( No.5 )
日時: 2010/03/19 23:19
名前: 獅堂 暮破 (ID: QYDGIf3B)

№05 「出会い」

俺達は今、あの窓から見えていた桜の木の真下にいる。
「ここら辺だと思うんだけどね」
久我がきょろきょろと辺りを見回しながらそう呟く。

「やっぱり伊月じゃん」

どこからか男の声がした。
声の感じから俺達と同じ年頃だろう。
「その声……」
久我が額から汗を流す。
厄介な相手なのだろうか。
その次の瞬間、桜の花びらが一斉に散り、目の前が見えなくなっていく。
「っ、何も見えねぇ」
俺は既に久我の姿さえ見失っていた。
目の前がピンク一色に染まる。
「ゲットー」
後ろから腰に手を回され、俺の足は地面から離れる。
軽々と抱き上げられてしまった。
「うわっ」
少し首を曲げれば相手の顔が目の前にあった。
桜と同じ薄いピンク色の髪。
「君が伊月の契約者、かな?」
そう言われ、俺は小さく頷いた。
俺を現在抱き上げている青年は俺よりも身長が高くて、顔立ちも少し大人びている。
恐らく一つか二つぐらい年上だろう。
桜の花びらの勢いが少しずつ弱まり、視界が明るんでいく。
「あっ!! 彪ちゃん」
俺の姿を見つけた伊月が駆け寄る。
しかしそれは、茶色の長髪の青年によって拒まれる。
「久しぶりですね、伊月」
落ち着いた声音。
世に言う、癒しボイス的な感じだった。
こう、なんというか、お父さんのような……。
「恢吏、それに環さんまで」
久我の反応を見た限りでは知り合いのようだった。

「あの、いい加減降ろしてくれませんか?」
未だに俺を抱き上げている恢吏と呼ばれた青年に俺はそう言った。
「んー? ちょっと待っててよ。今から面白いもの見れるよ、きっと」
恢吏さんは笑みを浮かべる。
風が強まりまた桜の花が散る。
それと同時に鳴り響く激しい金属音。
「な、何が起きてんだよ」
俺は目の前の光景に思わず目を疑った。
目の前では今まさに、久我と環と呼ばれた青年が戦闘を繰り広げていた。
二人の手には短剣が握られている。
それに、目の色が変わっている。
久我の蒼い瞳は紅く、環さんの漆黒の瞳は黄金色に。
「あれがねー悪魔本来の能力を解放した時の状態。まあ、彼らにとってはあれが通常の状態だね」
恢吏さんが俺を支えている右手とは別に左手をひらひらさせてそう説明する。
てか、なんであの人らは戦ってんすか。
それが今、一番聞きたい。
「あの二人、あーやって力比べするの、日課なんだよ。でも、伊月がしばらく契約者探しに出て離れてたから、うずうずしちゃってんじゃない?」
この人は人の心が読めるのか!?
そう正直に思った。
「ううん、読めないよー」
いや、読めてんじゃん。
思いっきりさ。

なんか、もう状況がディープ過ぎてついていけない。
頭ん中もういっぱいいっぱいだ。
「あ、そーいや自己紹介遅れたね。俺は鈴堂 恢吏(リンドウ カイリ)、悪魔である須賀浦 環(スガウラ タマキ)の契約者。君と同じ立場なんだ」

そう言っている間にも久我と環さんの戦いはヒートアップしている。
なんかもう、動き早すぎて見えないよ。
「恢吏!! 覚醒」
そう言われた恢吏は「おーけー」と一言返し、目を閉じる。

「黒き翼の使途よ。今、我と共に羽ばたけ。“リコルス”」

そう言葉を発し、ハッと目を開く。
すると今まで明るい茶色の瞳が環さんと同じ黄金色に染まる。
「嘘……」
そして、
環の背から黒い翼が現れた。
普通に考えればありえない事。
でも俺は今、それを目にしている。

これはあまりにも現実離れした現実。

俺はその光景をただ黙って見つめている事しか、
出来なかった。