ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:  Lost. 【№10 up】 オリキャラ求む!! ( No.27 )
日時: 2010/03/28 19:13
名前: 獅堂 暮破 (ID: QYDGIf3B)

№11 「彪と親」

崎野藍について行くこと五分。
「ここだ」
そう言って一つの家を指差した。
白い壁に薄茶色の屋根、現代風の綺麗な家がそこに建っていた。
藍さんは俺が急いで教室から持ってきた彪の通学バックを漁っている。
「鍵、これか?」
キーホルダーも何も付けられていない鍵を取り出しドアを開ける。
これってある意味堂々とした不法侵入じゃね?なんて俺は思っていた。
きっと恢吏達も同じ事を考えているに違いない。
なんとなく予想通りの家だった。
余計な物が何一つ置かれていない。
靴箱の上には家族の写真が置いてあった。
楽しそうに笑う幼い彪と両親。
どこにでもいる幸せな家族の写真だった。
しかし人の気配がない。
父親はいないとしても、じゃあ母親は?
俺は藍さんの後ろをついて行く。
いろいろな疑問が生まれていくが、今は彪を休ませるのが最優先だろう。
階段を上り、右に曲がる。
藍さんは表札も何もついていない部屋のドアを開けた。
ベッドと勉強机、後は備え付けのクローゼット。
必要最低限の物しか置かれていない部屋。
ここが彪の部屋。
ん?
何で藍さんはここが彪の部屋だって分かったんだ?
ドアには何も書いてないし……。
俺は彪をベッドに寝かせている藍さんをじーっと見つめながらそんな事を考えていた。

「ん?」
藍さんがこちらの視線に気付いたのか不思議そうに俺らを見た。
どうやら俺以外の四人も同じような視線を送っていたようだ。
「あーあー……そうか。俺がなんで彪の部屋を知っていたか気になってんだろ?」
図星。
見事に図星を突かれた俺らはビクッと肩を震わせた。
「俺達、親しい仲だから」
そうなんとも言えない笑みで言う藍さん。
あ、この人俺らの事からかってるな。
俺は何気冷静にそう思っていたが、環さん以外の三人の反応はきっと藍さんが期待していたものだろう。
「ははは、そんな期待通りの驚き、久しぶりだ。にしても、俺は一番君が驚くと思ってたんだがな」
藍さんが俺を指差して言った。
「俺は大人なんですよ。貴方が俺らで遊んでる事くらい分かります」
俺がそう言うと藍さんは「はは、そうかい」と笑っていた。
「で、コイツ、何があったんだ?」
藍さんはそう聞きながら眠っている彪の髪をそっと撫でる。
ああ、この人は彪の事を大切に思っているんだ。
彼の微笑みからそれが伝わってきて、何だか胸に沁みた。
「なんか、急に頭を抱えて倒れちゃったんです」
俺はその時の事を俺らの事情を抜いて全て話した。

「そうか。“また”か」

“また”
その言葉に突っかかった。
「また、ってどういう事ですか?」
俺が素直にそう尋ねると藍さんは答えた。
「昔からよくあるんだよ、そういう事。……親父さんとお袋さんが亡くなった後」
シトさんだけでなく母親も亡くなっているのか。
家に気配がない事の意味が今分かった。
「彪ちゃん……」
俺は眠る彪の顔を見つめた。
「俺が初めてコイツに会った時もそうだった。家の前で頭を抱えてしゃがんでいたんだ。確かその時はコイツ十一歳ぐらいだったかな」
十一歳、まだ小学生か。
俺は、いや俺達はその時彪がどれだけ辛いものを背負っているのか、改めて思い知った。
だけど、きっとまだまだ彪の背負っているものなんて分かりきれていない。

それをこの後、嫌と言うほど思い知らされた。