ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 機械騎士—knight— ( No.7 )
日時: 2010/03/15 17:06
名前: right ◆TVSoYACRC2 (ID: zuIQnuvt)
参照: http://noberu.dee.cc/noberu/gazoutoukou/src/file192.jpg

第一話[平和だった]後半

—ヘブン軍神奈川基地・ナイト格納庫—

格納庫は、たくさんのナイトがずらりと俺の左右にびっしりと並んでいる。まるで、彼らに見下ろされている。あまり、良い気分じゃないな。
彼ら、もといナイトたちは整備用の機具で固定され調整、整備されている。金属を削るような音に、天井にある通気孔から聞こえる風の音、飛び交う整備士たちの大きな声。ここはうるさくてあまり好きではないが、なぜか居心地が良い。

基地は先ほどの港から数十キロ離れた山間部に位置している。といってもそんな山の中で、でかでかと真ん中に目立つように設置されているわけでもない。上から見れば、ただの森にしか見えないように基地が上から木々によって隠されている。敵から見えないように。
ヘブン軍の基地は一部を除き、ほとんど地下制で、二階三階などはない。ここ神奈川基地は地上一階から地下十二階まである。ヘブン軍専用基地にしては大きいほどだが、東京の本部ほどではない。あそこは地上四階から地下二十八階まであるらしい。どんだけ広いんだって話だ。

——なぜ、俺たち日本の軍が『ヘブン軍』っていう名前なのかは、確か学習院にいた頃聞かされた事がある。学習院というのは、ヘブン軍付属学習院のことだ。十歳から六年間、入学が義務付けられているいわば軍の学校のようなものだ。そこを俺は飛び級をして三年で卒業した。その卒業間近の頃だ。ヘブン軍は二十八年前(西暦二千二百七年)までは『日本国家自衛隊』だった。その軍の名前が『ヘブン軍』となった理由は……。

「よっ! レッドドラゴン!!」

突然の大声に肩をびくつかさせる。何だと振り向くと、後ろからまだ若い、汚れた深緑色の作業つなぎを着た、黒髪で短髪の男が急ぐ足音と共に近づいてくる。次は、背中を思いっ切り叩かれるな。
ちなみにレッドドラゴンというのは、俺の別称だ。これは、杉村中佐が面白半分で考えたそうだ。理由は簡単。俺が『ドラゴンに乗っている赤い髪の戦士』だから。そこから赤の『レッド』、龍を意味する『ドラゴン』を取って付けられたコードネームのようなもの。いつの間にかそれが、この基地の皆に知られていて、そう呼ばれるようになってしまった。と考えているうちに、背中に予想通りの衝撃と音と痛みが走る。まるで、地面に思い切り背中を叩きつけられたかのようで、風船が割れたような音が背中からした。それにこの薄いパイロットスーツだと尚更痛い。
「……ぅおっ!?」
足に力を入れていたはずなのに、前につんのめっていしまい転びそうになるが、なんとかバランスを取り戻し、体勢を立て直した。
「……何、すんだよ」
背中を思い切り叩いてきた彼の方を向き、睨みつける。彼は、自分の目を見てか「ゴメン、ゴメン」と笑いながら謝ってくる。右手に握っているこのヘルメットで殴ってやろうか、と思いつつ口を開く。
「……で……何の用だよ。何か、あったのかよ……」
そう聞くと、『その言葉を待ってました』と言わんばかりに、彼の目が輝く。ちなみに彼はナイト整備士の青井颯太アオイソウタ、俺の二つ歳上の友人と呼べる人間の一人だ。
「来るらしいんだよ」
「……何が」
お前には具体的な説明をするという知識がないのか。そう思いながらも口に出さないという優しさぐらい、俺にはある。俺はそんなにひどい野郎でもない、と思いたい。
「他のところは少ないけどいるだろ? 女パイロット」
確かに、女性のパイロットは少ない。男との技量、体力の差だろう。男に勝る力を持つ女は早々いない。
だからそれが何だというのか。
「それが来るらしいぜ。神奈川基地初めての女パイロット! しかも子供ときた!」
このはしゃぎ様は餓鬼かお前は。五歳児か。ここは適当にあしらっておこう。この疲れた体で、颯太の長話に付き合ってられるほど、体力が残ってないんだよ。
「……あっそ」
あきれたように言い放つと、彼は足早に格納庫の出口に向かう。それを止めようと、後ろから颯太の声。さらにその後ろからの整備長の低く、大きな声が颯太を叱る。

しかし、何かが引っ掛る。

颯太は言った。
『それが来るらしいぜ。神奈川基地初めての女パイロット! しかも子供ときた!』
つまりは女の子。

子供……?

いや、調子が悪いんだろう、自分は。だから些細なことに疑問を持つ。子供は、極稀にいる。変なことじゃない。さっさと部屋に戻って休もう。俺は格納庫の出て、目の前に現れた、パイロットたちの部屋に繋がっている廊下を気だるそうに歩いていった。

後ろからの怒涛の声を聞きながら。

       続く