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Re: ノストラダムス!  ( No.100 )
日時: 2010/10/01 23:18
名前: ソフィア ◆fwGIPea7qU (ID: nWEjYf1F)

第八話 霧島千晶 

 福岡某所。城下ビル六〇一号室にて。
「亮輔」は、勢い良く扉を開けた。
「ただいまー」
そう言って笑う「亮輔」。しかし、部屋の中にいた里奈は完璧にその言葉を無視し、珈琲を飲みながらパソコンの画面と睨めっこ中だった。
「おーい里奈ちゃーん。俺帰ってきたよー。おーい、おーいってばー」
必死に里奈の気をひこうとする「亮輔」だったが、彼女はわき目もふらず、飲みかけの珈琲を机の上に置き、大量の書類をクリアファイルに整理し始めた。そしてそのままそれを彼女愛用のヴィトンのバックの中に乱暴に突っ込むと——
「じゃあ、わたし帰るわね」
そう言って立ち上がり、部屋から出て行こうとする。が……
「どこ行くの? 里奈ちゃん」
「……ちょっと買い物に」
そう小さく呟き、目を一瞬逸らす里奈。しかし「亮輔」は、その一瞬の隙を見逃さなかった。刹那、里奈の胸倉に手を伸ばし、自分の方に引き寄せ、言った。
「下手な嘘つくなよ、餓鬼。今“アレ”をバックの中に入れたよな? 誤魔化そうとしても無駄だから、早いとこ諦めろ」
いつものふざけた調子とは変わった、真剣な恐ろしい眼差しに、里奈は驚き、体が動かなくなった。
(……何よこいつ……いつもとは何だか……感じが違う……?)
里奈は、いつもとは違う「亮輔」を見て、急に気味が悪くなる。
「……っ、か、返すわよ! これでいいんでしょ!?」
里奈は、バックから大量の書類を閉じたクリアファイルを取り出すと、「亮輔」に向かって投げつけた。「亮輔」はそれを受け取ると、三秒程目を瞑り——
「はい、ありがとー。じゃあ、今日はもう時間だから帰っていいよ! 俺は、部下に残業はさせない主義だからさぁ」
次に目を開けたときには、もういつもの「亮輔」に戻っていた。里奈は一瞬目を見開き、信じられないと言った拍子だったが、すぐに正気を取り戻し、ドアノブに手をかけ、
「帰るわね」
そう言い残し、部屋から出て行った。
「うん、バイバイー」
「亮輔」は、里奈に向かって手を振った。そして、里奈が完全に城下ビルから立ち去った事を仕事部屋の窓から確認すると——

クルリ、と後ろを振り返り、にこりと微笑んだ。彼の背後には、窓辺のカーテンの影に隠れて佇んでいる少女の姿があり、彼女もまた、うっすらと笑みを浮かべていた。
「さて。えーっと……」
「千晶です。霧島千晶」
少女——霧島千晶は、先ほどから少しも表情を変えずに、ただ、事務的にそう言った。まるで、初めから彼女の台詞がプログラムされていたかのように。それほどまでに、彼女は機械的な人間だった。
「そうそう、千晶ちゃん。ごめんね、この前は急用でアメリカに飛んでたから、千晶ちゃんとの予定は後回しになっちゃったんだよ」
「いえ、特に気にしていないので心配ご無用です。それより、今日はとても大事なお話がありますので、真面目に聞いていただきたいのですが」
「あぁ、そうだったね。薬、だよね? 君が知りたいのは買うルート? それとも売るルート?」
まるで、「あなたが落としたのは金の斧ですか、銀の斧ですか」とでも言うように、「亮輔」は、両手を交互に上下させ、おどけた調子で言った。
千晶は、そんな「亮輔」の様子に特に反応することも無く、ただ
「いえ、わたしが知りたいのはそういう類のルートでは無いのですが」
とだけ呟いた。
「あっ、そうなの。じゃあ何? まさか作るルートを教えろとかじゃないよね?」
「亮輔」は訝しげに聞き、手元にあった、里奈の飲みかけの珈琲を口にした。
「そのまさかです」
千晶が言うと同時に、ブッ、と珈琲を噴出してしまう「亮輔」。その一部が千晶の頬に飛び散ったが、彼女は気にもせず話を続けた。
「亮輔さん、ノストラダムスってご存知ですか?」
「亮輔」は、彼女の口から「ノストラダムス」という単語が飛び出した瞬間、あからさまに顔を硬直させ、汚いものを見るような目で、コーヒーを飲み干し、言った。
「……呆れるほど知ってるさ。で、アイツがどうかしたの?」
「亮輔」がそう問うた瞬間、千晶は、急に顔を引き締め、ゆっくりと口を開いた。
「——わたし、あの人の命を奪いたいんですよ」
「……は?」

「スプラッタエージェント、って……ご存知無いですか? ——わたし、アレのリーダーなんです」


:後書き:
千晶ちゃん、やっと登場しました!
この物語の真のヒロインといっても過言ではない美少zy((すいません、ヒロインは撫子です!←
今回から、撫子・「亮輔」・千晶の関係が徐々に絡まっていく予定。そう、あくまで予定です!

千晶ちゃんがリーダーをやっているという「スプラッタエージェント」については、また次回に詳しく執筆致します!

そして、次回は、皆さんが応募してくださったオリキャラが一名登場します!
さぁ、一体誰なのでしょうか?

誤字・脱字などございましたら、言ってくださると嬉しいです。感想やアドバイスもお待ちしています。

それでは、ソフィアでした〜。