ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ノストラダムス!  ( No.101 )
日時: 2010/10/16 22:54
名前: ソフィア ◆fwGIPea7qU (ID: nWEjYf1F)

第九話 スプラッタエージェント

「スプラッタエージェント」。「亮輔」は、その組織の事を誰よりもよく知っている。
簡単に言えば、彼の義理の妹である、ノストラダムスこと富山撫子の命を狙うだけの為に、十三年前に現れた暴力組織。それだけだ。

——本当の事を言ってしまえば、「亮輔」は、この組織の事を軽視していた。
しかし、三年前のとある事件から、そういう訳にもいかなくなったのだった。

「福岡市○○地区、無差別殺人事件」。この事で、スプラッタエージェントの初代リーダーは命を落とし、代わりに、当時まだ中学生だった彼の娘が、組織の頂点に立つ事になったのである。
以前からスプラッタエージェントと面識があった「亮輔」は、一度だけ娘と顔を合わせた事があるが、彼女は、少なくとも普通の学生とは違う目をしていた。「亮輔」は、その目に少なからず恐怖を覚え、スプラッタエージェントを常に視野に置いておくことを決めたのであった。
——しかし、まさかあの時の少女と、こんな所で……ましてや、こんな状況で再会するなど、思ってもいなかった。

「……名字で気づくべきだったなぁ。そうだよ、霧島といえば、あの霧島じゃないか」
「亮輔」は、少々驚きの表情を浮かべるも、いつもと変わらぬ調子でそう言った。
それに対して千晶は、ペコリと頭を下げる。
すると「亮輔」は、少し間を空けて、空気の読めない事を口走った。
「あー、でも君、結構変わったね。あの、その、胸とか」
「そう言うあなたはお変わりのないようで。その気持ち悪い性格とか」
千晶は、顔色一つ変えず、淡々と言った。
「そりゃどーも。それはそうと、どうして俺の所に来たわけ? アイツに関しては俺は無干渉ってことにしてるから、殺し屋にでも頼んだ方が早いと思うけど」
「……あなた、ご自分の職業、分かってらっしゃいます?」
その問いに、「亮輔」は少しためらった物の——答えを口にした。
「……ハッカー兼、殺し屋」
「だから頼んだんじゃないですか。いくら払えば、お仕事引き受けてくれますか? 一応、一千万持ってきたのですが、足りないのでしたら三億程そちらの口座に振り込ませていただきます。口座番号は?」
千晶の弾幕の様な言葉に、「亮輔」は、一瞬だけではあったが目がくらんだ。
「君さぁ……仮にも組織のリーダーなんだから、そのくらい自分でしたらどうなの?」
「嫌です、あなたがしてください」
「……即答かよ」
千晶は、先ほどとは何ら変わらず、恐ろしい程に無表情だった。
「ねぇ、どうしてそこまで俺にやらせようとするわけ?」
「亮輔」は尋ねた。
「そこまで——そうだよ、そんなにアイツが嫌いなのなら、自分でやればいいじゃないか」

——その刹那。
千晶は立ち上がり、部屋の窓を右手で叩き割った。

「いや、だってわたし、警察の世話にだけはなりたくないんですよ。まだ高一ですし。ですから、お金を払っているんではありませぬか。殺し屋さん?」

千晶はそれだけ言い残すと、軽やかに窓の外に飛び出した。

「……えっと、ここビルの六十階なんだけどなー……」
たった一人、取り残された「亮輔」は、その場から動けずにいた。

*

城下ビル、駐車場にて。
タッ、と、霧島千晶は地面に着地した。少々苦しそうに顔を歪めたものの、体に異常は無いらしい。本来なら、着地の衝撃で命を落としてもおかしくないというにも関わらず、千晶はいたって平常だった。
すると、駐車場に停められていた車の陰から、一人の青年が現れた。
「どうだった、千晶」
青年はそう言うと、吸っていたタバコを地面に放り投げ、靴の裏で残り火を消した。
彼は、灰色のパーカーにジーンズというルーズな格好をしていて、パーカーのポケットには、大量の煙草が詰め込まれていた。
それに対し千晶は、青年に目も向けず、青年が放り捨てた煙草の吸殻を拾い上げ——駐車場の端にあった吸殻入れに吸殻を投げ捨てた。
「吸殻はちゃんと吸殻入れに入れなさい。それと、活動中はリーダーって呼んでね」
千晶のその言葉を聞いて、青年は大して反省もした様子も無く、ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
「……リーダー。どうだった、亮輔とかいう奴は。使えそうなのか?」
タバコを吸いながら、そう尋ねる青年。千晶はその問いに、こう答えた。

「使える、って言うか——わたしと亮輔さんは、利用し合う関係、ってトコ……かな」
「……そうか」
「えぇ。あ、もちろん、あなたにも協力はしてもらうよ。ね、いいでしょ、藤堂クン」
「……瞬でいいよ、リーダー」

そう言って青年——藤堂瞬は、にやっと笑った。
火蓋が切って落とされた事を、「亮輔」は、まだ知らない。


:後書き:
久々の更新です、お久しぶりですソフィアです!
最近、更新が停滞しているのには、理由があります。
——ネタが、思いつかないんだ。
はい、申し訳ありません……本当。

ではでは、気休めに番外編でも更新しよっかな。でも、やっぱり本編……?うん、まぁいっや。