ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白銀の少女 ( No.106 )
- 日時: 2010/04/17 20:49
- 名前: 羽鳥 (ID: FjkXaC4l)
京の都は、そろそろ祇園祭りが始まる時期だ。
人がいつも以上に賑わっている。
本当に今夜は満月だった。 初音たちの言った通り。
満月の日は、わたしも鬼狩りをしなくてはいけない。
鬼や妖怪は、満月になると力が倍増するのだ。
だから、わたしも同行する、というわけで。
外は、真っ暗で月だけが輝いていた。
「いいか、新撰組もいるから注意しなさいよ」
初音が厳しい顔で言う。
人斬り集団、壬生浪、など言われている新撰組。
新撰組に鬼狩りをしているのを見られたら、終わりだ。
「もう、分かってるよ、初音……」
「じゃあ、私は先に行く。 ちゃんと来いよな」
初音は振り向かずに、前だけを見て屋敷を出て行った。
巫女であるのに持つ、邪悪なものを斬る刀・百花を持って。
わたしは、もうちょっとしてから行く予定だった。
「魄……っ」
背後から、親友の声がした。
だから、わたしは振り返る。
「雪、どうしたのですか……?」
そして、わたしはとても驚いた。
何故なら、雪は巫女装束だったから……。
「雪っ、雪っ、どうして巫女装束をっ」
「駄目なの! 今夜は嫌な予感がして、たまらないの!」
それから雪は、焦った様子でわたしに両手を見せる。
パチパチ、と音をたてる雪の霊力。
その霊力は、本気を出せば初音を超える。
なのに、次期巫女にならなかった。 それは不明。
もう二度と、巫女装束にならないと言ったはずの雪が。
雪が、どうして巫女の格好を!
「着ないと、言ったはずでしょう?」
「でもね、今夜は本当に嫌な予感がするの!」
目に涙をためる、雪がいた。
「私の勘、はずれたことないよね?
だからっ、どうか今夜は行かないで────ッ!
いやっ、私も一緒に───!!」
そこで、わたしは雪の肩を優しく掴んだ。
たしかに雪の勘は、はずれたことがない。 一度もない。
だから、今夜は危ないのかもしれない。
こんな必死に止めてくれる人がいる。
わたしは鬼なのに、何故雪はこんな必死に止めるのでしょう?
わたしは鬼なんだから、鬼なんだから。
「わたしは、鬼、なんですよ、雪ッ」
「知ってるよおっ!!」
泣き叫ぶ雪。
「鬼なんだから、すぐに傷も癒えます!
だから、だからっ、絶対に大丈夫なんですよおっ」
「…………っ」
「大丈夫なんですよ? わたしは鬼なんですから!」
「でも私はっ、そんなことばかり言う魄がッ。
今夜は鬼の血に狂っちゃうと思うの! 嫌なのお!」
───【鬼の血に狂う】。
つい最近、わたしの大切な兄は狂い、死んだ。
勿論、目の前で見たのだ。 見たのだ。 見たのだ!
でもわたしは、
「大丈夫ですよ、昔、一度狂いましたから」
「なっ?!」
「わたしは幼い頃、狂い、自分の親と故郷を失いましたよ。
そこを初音に封じられましてね……」
「ごめん、なさい」
「いいんです、だから、狂いませんよ?」
パチン、と雪が音をたてる。
霊力を消した音だろう。
「では、いってきますね────」