ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白銀の少女 ( No.107 )
- 日時: 2010/04/17 21:29
- 名前: 羽鳥 (ID: FjkXaC4l)
キイン、と金属がぶつかり合う音がした。
急いで音の方へと向かう。
そこにいたのは、やっぱり初音だった。
体中からたくさんの、霊力を放っている。
そして、初音を取り囲む五体の鬼。 三人の半鬼。
今夜は人数が多すぎる。 満月だからだろうか?
「初音ぇええええええええッ」
鞘から鬼刀・桜花を抜き、鬼たちに斬りかかる。
それに気づいた初音は、ニッと笑うと鬼に斬りかかった。
やはり、満月だから今夜は手ごわい。
すぐ終わることはないだろうな……。
【鬼ノ………。 木下家ノ娘ハ……】
何だ? 頭に響く、この声は何だ?
あまり戦闘に集中できないが、できないことはないので無視。
だが、声は止まらない。
だんだん大きくなっていく……!
【最強ノ鬼、木下家最後ノ娘、最強ノ血ガ……】
「おいっ、魄?! どうしたんだっ」
「は、つ…ね……、コえ……ガ…!」
「声? 何のだッ、ハク!!」
ぷつん。
そこでわたしは意識がなくなった気がした。
目を覚ますと、わたしは屋敷で眠っていた。
たぶん、これは朝だろう。
誰か呼んで、昨日のことでも訊くか。
「雪? 千歳? 初音? 蒼?」
こう声をかければ、絶対誰か来る。
───だが、誰も来なかった。
何故ですっ、どういうこと?!
もしかして何かあったのでしょうかっ?!
わたしは起き上がり、屋敷を歩き回った。
歩いていると、神社の近くの部屋に人影があった。
「っ」
急いで、襖を開ける。
そこにいたのは、千歳だった。
千歳は、わたしの姿を見ると顔を真っ青にした。
「千歳、どうしたんですか……?!」
「………あ、う……っ」
いつも以上に、上手く喋れていない。
相当なことがあったのだろう。
すると、バタバタと誰かが走ってくる音がした。
そして、
「ハクッ」
雪が、息を切らしながら真っ青な顔でそう呼ぶ。
「雪、何があったのですかっ」
「────覚えてない、の?」
「やっぱり昨日、何かあったのですかッ」
「魄は昨日───」
「雪、魄!」
蒼の怒鳴り声で、雪は喋るのを止めた。
雪の背後には、少し表情を曇らせた蒼がいた。
そして、
「魄はおれが何とかする。 だから、魄、来い」
それだけ言うと、外へ向かった。
急いでわたしは追いかける。
神社の社の前で、蒼は立ち止まる。
そして、わたしを抱きしめた。
「おれは、嫌だよ────」
「………?」
「おれは最初から、嫌だった。 魄が鬼狩りをすることが」
「っ」
抱きしめられているせいで、蒼の顔が見えない。
どんな表情をしているのだろうか。
「こんなに愛しいのに、君はそうやって危ないことをする」
「でも───」
ギュウ、と強く抱きしめる蒼。
「だから、おれは信じたくない」
「…………」
【鬼ノ最強ノ血……】
昨日もした、あの声が再び響く。
また、だ。 本当に何なのだろう。
【殺してしまえよ】
あの声は、昨日よりハッキリとしていた。
殺してしまえよ? 誰を?
【最強の鬼は、最強でなければならない】
【こんな貧弱な人間なんか、殺してシマエヨ───!】
体に、全身に雷が落ちたような感覚がする。
さっきから、蒼が何を喋っているのか分からない。
そうっと、わたしは蒼を引き離した。
蒼はひどく驚いた顔をしていた。
それから、泣きそうな顔になる。
【殺シテヤル】
◇ ◇ ◇
魄は、優しくおれを引き離した。
その表情を見て、驚いた。
紫の瞳には、殺気が煌いている。
これは、鬼だ───!
ゆっくりと、魄は刀を抜く。 鬼刀・桜花。
そして鬼独特の笑みを浮かべ、ゆっくりと振り上げる。
だからおれは、静かに両手を広げる。
なあ、魄……、聞こえているか?
おれは、本当に本当に本当に、
「なあ、魄? 愛してるよ………」
【貧弱な人間なんて、いらないよ────】
痛みが、全身に広がっていく。
今まで一緒にいた、魄との思い出が溢れる。
さようなら、
世界で一番愛した人、
最期に殺してやると言った人、
こんな最後、願ってないけど。
でも仕方ないよな?
人間は弱いんだから。
でもね、それでも、あいしてるよ。
◇ ◇ ◇
【こんな奴、木下家には絶対合わない】
刀についた血をそっとふき取った。
わたしは最強の鬼だ、木下家の最後の鬼だ。
あはは、
あははは、
あははははは、
あははははははは、
あははははははははははははははッ!!
「わたしハ最低だッ!】
蒼、蒼、蒼、蒼!
鬼と人の狭間で、わたしは狂っていた。 狂っている、
愛しい人を斬った鬼、初音を斬った鬼。
その二つを失って悲しむ人。
あああ、わたしはどっちだロウ?
鬼かな、人カナ?
あああああああああああああああああああああああああああああッ。
青い空に、紅い桜が舞った。
◇ ◇ ◇
木下魄が、自分で自分を斬って死んでいる……。
最強の鬼の血が、流れている。 嗚呼、勿体無い。
エンジュはそうっと、近寄った。
それから、流れている血を自分の傷口に流し込む。
一瞬だけ鋭い痛みがした。
それから、髪は白銀になっていったのだ。