ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白銀の少女 ( No.87 )
日時: 2010/04/07 21:14
名前: 羽鳥 (ID: g8t52Hd5)

◇   ◇   ◇

────きみの名を、おしえてよ。

優しく微笑む少年に、わたしは見とれてしまった。
自分で、頬が赤くなるのが分かった。
恥ずかしくなって、わたしは俯いた。

────どうしたの?

少年は、心配そうに顔を覗きこむ。

────!!
驚きすぎて、声にならなかった。
そんなわたしを見て、少年は笑った。

────ごめんね、驚いた? 驚いたよねぇ。

この少年は、きっと良い人だろうと思った。

────わたしは、木下……魄、です。

ぱあっと、漆黒の瞳を輝かせる少年。

『へえ、良い名だね!
 おれは上坂蒼。 よろしくな、ハク!』


わたしとあなたが、出会えた瞬間。
護りたいと、祈りました。

この笑顔を、失くしたくない────。

◇   ◇   ◇


夜の八時になった。
ぼんやりとテレビをみていた、わたし。

「───っ、百合!」
突然、玄関の方から十夜の声がした。
またアイツ、合鍵使って入ってきたのかよっ。

「十夜あ! もう、いきなり何?!」

わたしの前にすとん、と座る十夜。 制服のままだった。
すると体をわたしに近づけてきて、手をわたしの額にあてる。

「………っ、っ! ななななっ」
「熱は、ないみたいだな。 良かったな、熱なくて」

ひんやりした十夜の手が、はなれる。
まったく、コイツは────!

「ばあああああ、かあああああああ、じゃないのおおおおおおお!!」

十夜が耳を塞ぐ。
あー、もう。
何なんだ、コイツはっ!

最近様子がおかしいっていうか、何ていうか!
わたしがおかしいのか?

あーもう! 何なのよおおお〜っ。

「でっ、何をしに来たの?」

十夜から少し離れ、わたしは問う。
その瞬間、十夜の漆黒の瞳が揺らいだのを見逃さなかった。

「えーと、それは────」

『百合さん、鬼狩りだよお』

「ひゃあああああああ! ……弥生ちゃんか」

突然、わたしの目の前に弥生ちゃんが現れた。
妖怪って困るなあ……。

(わたしになっても、いいんですか……?)
「うーん。 もうちょっと後でね」

わたしは鬼刀・桜花を握る。

「おれは、どうしたらいい?」
「十夜はここにいて。 すぐ帰ってくるから」
「ん」

短い返事をした、十夜。

『じゃ、あたしの背中に乗って』

ふさふさの黄金の毛。
うわあ、初めて狐の上に乗った。

『GO!』

弥生ちゃんが言った瞬間、いつの間にか外に出ていた。

「はっ?! これ、どういうこと? 窓、突き破ったの?!」
『まさかあ。 あたしが頑張ったんだよ♪』

もうこれ以上訊くのは、やめよう。

「それで、今日はどこなの?」
『今夜も学校なのだよ〜ん』

あ、本当だ。
グラウンドを見ると、疾風くんがいた。
でも鬼はいない様子だ……。

「どこ?」
(あそこです────ッ!)

上空から見えた、ナニカ。
それは疾風くんの目の前を突っ切った。

血を吹きながら、疾風くんは倒れていく。

「疾風くん……っ!」
『疾風ッ!!』

ぐん、と弥生ちゃんのスピードが上がった。

その瞬間、わたしは木下魄さんに体をかすことにした。
するすると白銀の髪になり、瞳は完全な紫になる。
右手には、鬼刀・桜花。
そして、

『今夜も狩りますよっ』

木下魄になった、わたし。

ひょいっと弥生ちゃんの体から、地面に急降下する。
そして、舞うように降り立つ。

『疾風……!』

わたし、木下魄は疾風に向かって行く。
だが、途中で遮られてしまう。

ガキイイン……!

鬼刀・桜花の鞘と何かがぶつかる音。

『お前は……っ!』
わたしは相手を見て、小さく叫んだ。

黄色に染まった瞳。
二つの大きな角。
そして───、腰まで伸びた白銀の髪。

『エンジュ……?!』