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Re: 煉獄−業火の女王− ( No.1 )
日時: 2010/03/19 19:16
名前: 紺 (ID: zCJayB0i)

第一話−戯れ−

「・・・・・退屈じゃ」
紅蓮に包まれる豪華な宮殿の大広間。
大人二人分もあるソファに少女が寝そべっていた。
「まこと退屈じゃのう・・・・」
頬杖をついて溜め息を吐く姿は憂鬱を漂わせるには充分で。
悩ましげな表情が艶を帯び、大人びて見える。
「おい、ルーヴェン」
少女が呼べば一人の男が姿を現す。
「お呼びでしょうか、陛下」
恭しく頭を下げたその男は片膝をついて話す。
「ルーヴェン、適当な罪人を連れて参れ」
「罪人・・・でございますか。畏まりました。少々お待ちくださいませ」
男、ルーヴェンは少しだけその場を離れたかと思うと、今度はもう一人男を連れて帰ってきた。
首と手を鎖でつないでいる男を、ルーヴェンは少女の前に引きずり出した。
「ほう、そなたのような若人(わこうど)が罪人か?世の中は荒んでおるのう」
くつくつと小さな笑みをこらえながら少女は問う。
「、お、俺は、ただ友達の悪口を言っただけじゃないか!!
 何で罪人なんかにされなきゃなんねぇんだよ!!」
男は必死に少女に訴える。
そんな様子を見た少女は、口の端を引き上げた。
「言っただけ、と申すがそなた、その友がどうなったか知っておるのか?」
「はぁ?!知るかよそんなの!!」
男が疑問符を浮かべる中、少女はさも簡単そうに続ける。
「そなたの悪意なき悪口が、友を絶望のどん底に突き落としたのじゃ。
 哀れよのう・・・。信じていたそなたのせいで周囲の者共に虐められ、挙句の果てには自殺じゃ。
 ・・・・・それでも、そなたのせいではないと言い切れるのかのう?若人よ」
ソファの横に置いてある机から煙管をとり、口に含む。
「難儀なことよ。友が絶望に囚われている傍らで、そなたは色恋沙汰に夢中とは・・・」
ふぅ、と白い煙を男に吐き出す。
いきなりのことだったので、男はもろに吸ってしまいゴホゴホと咳き込む。
「そんな罪深きそなたに、我から裁きを下そうぞ」
そう言って少女はにこりと笑う。
「さ、裁き?!」
男は驚愕に目を見開く。
「ん〜・・・・・何がいいかのう・・・」
「ちょっ、待ってくれよ!!何で俺がそんな目に合わなくちゃいけないんだ!!!!」
男は少女に詰め寄り、襟を掴み上げる。
「・・・・・我に気安く振れるでないわ、この愚民が!!」
少女が男の首を掴み持ち上げる。
「ぅぐぅ、く、苦しい・・・、降ろしてくれぇ!!」
男の懇願に少女はにまりと笑う。
「・・・・・業火に焼かれて灰と化すがよいぞ、罪深き若人よ」
少女の手から炎が燃え上がり、一瞬にして男を包み込む。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
手を離すと床にグシャッ、と音を立てて落ち、ジタバタと転げまわっていたが、直ぐに止まった。
・・・・・死んだのだ。
「・・・・ふ、ふふ・・・あははははははは!!!あはははははははっ!!!!!!!!
 他愛もないわ、この蛆虫がっ!!あははははははははははははははははははは!!!!!!」
手を口元に翳しながら笑い続ける少女は悪逆の王のようである。
「・・・ふぅ。此処も飽きたし、地上にでも参るかの。
 ルーヴェン。留守を任せたぞ」
「仰せのままに、我が女王陛下・・・・・」
そう言って少女は立ち上がる。
「さて、地上の愚民共の頭に刻み込んでやろうではないか」
残酷に、麗しく笑みを浮かべる。
「誉れ高き我が名、煉獄の王<スカーレット>の名をな・・・・・・・」
その笑みはさながら、新しい玩具を探しに行く幼子のようだった。