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Re: 煉獄−業火の女王− ( No.12 )
日時: 2010/03/23 23:13
名前: 紺 (ID: zCJayB0i)

第十話−口唇−

「朝じゃぞ。起きるが良い、茜」
朝。暁が茜の上に乗っかっていた。
「ぅうぅぅ〜・・・・・重いよ暁ぃ・・・・・」
茜がゴロリと寝返りをうつと、乗っていた暁も床に叩きつけられた。
「ぁいた!!これ!!何をするのじゃ茜!!」
お尻を打ったのか、さすりながら暁は茜の頭を軽く叩く。
「ぅえ?!あ、ごめんね暁・・・・・。大丈夫だった?」
「大事には至っては居らぬ。平気じゃ」
すくっと立ち上がり、腰に手を当てて姿勢を正す姿は高貴な雰囲気を醸し出す。
「・・・・でもどうしたの?今日日曜日だよ?こんな朝早くから・・・・・・・」
まだ午前5時にもなっていないにも関わらず、暁はもう着替えなどを済ませている。
昨日の真っ赤なワンピースと違い、黒を基調としたゴスロリでカボチャスカート風のワンピ。
・・・・どこかに出かけるのだろうか。
「どこか行くの?そんなに御洒落して・・・・」
「うむ。少し人に会う約束をしておるのでな。帰りは遅くなる故良しなに頼むぞ」
「わかった。気をつけてね〜」
そして茜は暁が出かける様子を見送ったのだった。


家を出てから暁は新宿に来ていた。
新宿と言っても、人通りの多いショッピングモールなどがある場所ではなく、
人気の少ない路地裏を通っていた。人と会うために。
「・・・・・・・・遅いぞ」
急に歩を止め、くるりと後ろを振り向く暁。
そこには二十代前後の女が立っていた。
「お久しぶりですわね。女王陛下。確か最後にお会いしたのは10年前でしたか?」
くすりと手を口に当て、上品に笑うその様子はどこかの令嬢を想像させる。
「10年と4カ月じゃ。愚か者めが。・・・・・して、我の頼んだものは用意できたのか?」
暁はその女に向かって手を伸ばす。
それを見た女は肩を竦め、直ぐに懐から茶封筒を取り出した。
「依頼された通りのものを持って参りましたわ、陛下。
 ・・・・しかし、一体何故今更になって<その者>を御捜しになられるのですか?
 <あの時>ならまだしも、100年も前のことですよ?」
女は首を傾げながら暁に問う。
その問いに暁は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら答えるのだ。
「・・・・煉獄から脱獄者が出たのじゃ。無論、捕えてそれなりの<仕置き>はしてやったがの。
 その脱獄者を裏で操っていたのが、<あやつ>だということが判明したのじゃ」
その言葉を聞いて女はまあ!と驚きを隠せない様子だ。
「必ず<あやつ>を捕えて無へと還してくれるわ。・・・・その為に、そなたを呼んだのじゃ」
わかっておろうな。と念を押すように女に言う。
すると女はにやりと妖艶な笑みを浮かべる。
「私の力を存分に発揮せよとの御命令ですわね?嬉しいですわ!陛下のお役に立てるなんて!!」
手を組み、恍惚とした表情を浮かべる女に暁は満足そうに笑う。
「そなたのその口唇の術、楽しみにしておるぞ?我が家臣<イリア>よ」
イリアと呼ばれた女はあら、と暁に跪く。
「陛下、口唇の術ではなく<言霊>ですわ」
「ほう。言霊とな。それはどんなものなのじゃ」
「言葉だけで人を意のままに操れるのです。昔の意味とは違ってきているらしいですが・・・・・」
「ふむ・・・・。奥が深いのう、人間とは」
感心したようにブツブツと何か呟いている。
「では陛下。直ちに御命令通りに行動いたします」
「うむ。良い働きを期待しておるぞ」
イリアは一礼し、闇の中へと走り去っていた。
「・・・・・言霊、のう・・・」
暁はポツリと言ってみる。
「言の葉だけで、人が操れるとは・・・・・脆いのう・・・」
その小さな口唇から紡がれる言葉は、紛れもない事実だった。