ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 煉獄−業火の女王− ( No.14 )
- 日時: 2010/03/24 09:50
- 名前: 紺 (ID: zCJayB0i)
第十一話−心情−
深い、深い深い闇の底。
燦々とした光すらも届かない漆黒の檻の中。
耳が痛くなるほどの静けさの中に、<それ>は存在する。
「・・・・暇ねぇ・・・・・・・・」
氷のように冷たい床ともいえぬ平面の上で、寝そべっている<それ>は呟く。
何も無いその空間に<何か>を生み出すのは、<それ>と<それの宿主>だ。
「こうも何もないと死にそうなほど退屈なのね、知らなかったわ・・・・・」
はあ。と大きな溜め息を吐く。憂鬱ながらも客観的なその態度は劇に見飽きた子供のようだ。
「!・・・・あらあら・・・・・・またこんなに降ってきた」
<それ>が上を見上げると、滴のようなモノが降ってきた。
真珠のように輝き、それは落下する。
滴が平面にぶつかり、破裂すると、中から言葉の羅列のようなものが溢れ出てきた。
≪どうして、何で、怖いよ、寂しいよ、誰か、誰か助けて≫
全てが溢れ出ると羅列は消える。だが、絶え間なく降り注ぐ滴からは同等のモノが溢れ出る。
≪悔しい、憎い、歯痒い、もどかしい、嫌い、嫌い嫌い、大嫌い≫
≪壊したい、何もかもをめちゃくちゃにして、破壊し尽くしてしまいたい≫
≪欲しい、手に入れたい、私のモノにしてしまいたい≫
それぞれの滴が吐き出す羅列は<ある人物>の感情の塊。<ある人物>そのもの。
全ての滴が降り終わったかと思えば、最後に大きな滴が落ちてきて、破裂した。
≪・・・・・死にたい・・・・・≫
どの滴とも違う羅列が溢れてきた。
≪どうして私は<私>なんだろう。どうして他の人になれなかったんだろう。
どうしてこんなにも惨めなんだろう。どうしてこんなにも哀しいんだろう。
・・・・どうして、生まれてきたんだろう。どうして一個人として生を受けたんだろう。
・・・・・・こんなにも苦しい自分なら、死んでしまいたい。
殺して。誰か私を殺して。殺して、殺して・・・・・私を解放して・・・・・。
・・・・・・死にたい・・・・・・・・・・・・・≫
そうして吐き出し終えると、何事もなかったように羅列は消えていった。
「・・・・・・・・・死にたい、か・・・・・・・」
一部始終を見ていた<それ>は体を起こした。
消えていった羅列を慈しむように、<それ>はそっと目蓋を閉じる。
「死にたければ、死ねばいい。消えたいのなら、消えればいい。
なのに貴方はそれをしようとはしない。・・・・それはどうしてか、わかる?」
誰もいない空間で<それ>は誰かに質問をする。
「貴方が、<生きたい>と願っているからよ。・・・・矛盾してるとは思わない?」
クスクスと笑みを零して<それ>は言葉を続ける。
「人間の心情なんて複雑なものよねぇ?迷路のように入り組んでいて、気持ち悪い・・・・」
立ち上がり、手を開いて上を見上げる。
「さあ、早く私を捕まえてごらんなさい?捕まえたいんでしょう?」
馬鹿にするように笑い叫ぶ。
「私はあんたのすぐ近くにいるわよ?!スカーレット!!
あんたの願いという障壁に阻まれてみえていないでしょうけどねぇ!!
あはははははははははははははははは!!あはははははははははははははははははははははは!!!!」
黒き闇で笑い声が木霊する。
・・・・その木霊は、果てして誰の中で反響しているのか。