ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 月の迷宮─月の国のオ遊ビ─ ( No.2 )
- 日時: 2010/03/23 20:50
- 名前: レイ (ID: F35/ckfZ)
第壱話「闇夜の彼方に」
こんなに月が蒼い夜は、不思議な事が起きるよ。
どこか深い森の中で彷徨う私。
「やぁ、お嬢さん!ワインはいかが?」
タキシード姿のウサギ。不思議の国の象徴ですか…。
「…有難う御座います。頂きます」
左手に持ったワインを少し上に上げる。
劇薬か何かが入っているのでしょう。気絶する覚悟はできています。
「美味しいでしょ?お嬢さんのために特別に作ったんだよ!」
「劇薬入りですね…。予想していたことですが…」
「悪く思わないでね、お嬢さん。月の王子様が迷い姫に会いたいって言うんだもん。逆らったら殺されちゃうんだよね…」
最後の方はよく聞き取れなかった。
「でもね、お嬢さん気に入られるかもよ。今までで一番美人だもんね」
気に入られなかったら殺されちゃうよ。生きたいのなら王子様に気に入られなきゃね。気に入られれば生きていけるよ。
「王子様、迷い姫をお持ちしました」
うやうやしく跪き、さっきのお嬢さんを王子の前に差し出す。
「フッ…。中々の上玉だな。目が覚めるまでそこで寝かせておけ」
「はい」
そしてベッドに寝かせた。
「まったく、王子さんも人使い荒いっつの。なんで俺がウサギちゃんに変身してお姫さん連れてこなきゃいけないわけです?」
今までウサギだったのが急に人間になる。元は人間だが、王子に気に入られウサギに変身して「迷い姫狩り」をしている。
「…楽しいからだ」
「『楽しい』って…。俺はオモチャじゃないって何度言わせるんです?」
「私に気に入られたものは全て私の玩具だ」
不幸か幸運か…。死は免れるものの、永遠の苦しみを味わっていかなければならぬ。勿論、私の玩具としてだ。
「はいはい。王子さんは自己中心だこと」
「美しいな。まるで死んでいるようだ」
死人のように白い肌。死人のように冷たい肌。死人のように動かない。
「王子さんは死んでる人が美しいと思うっての?不思議だねぇ」
「お前も綺麗だと気に入っていたのだろう?」
「おっ。見られてたって?覗き見とは趣味が悪い王子さんだねぇ」
ちなみに、ウサギは人間になると軽い感じのチャラ男(?)風になる。
「…」
王子はおもむろに瓶から血を取り出し、迷い姫の首筋や鎖骨に垂らして行く。
「美しいだろう?白い肌に真っ赤な血が良く映える…」
「ホンット。俺には理解できませんよ。王子さんの美はね」
柱にもたれかかり、腕を組んで瞳を閉じて喋る。その姿にはわずかな色気が感じられた。
「ん…」
迷い姫は静かに瞳を開く。その瞳も、血のように真っ赤なものであった。
「目が覚めたか」
「貴方は…?」
目の前には先ほどのウサギはおらず、高貴な雰囲気を出している男の人と、泣き黒子が特徴的な男の人がいた。
「私はディア。この国の王子だ」
「俺はライト。さっきのウサギだよ。解るかい?」
「あの時のウサギは…。人間になるのですね」
それは想定外です。
「まぁね。こんなことお茶の子サイサイだっつの」
「そうなのですか」
とくに興味なさげに言葉を返す。
「美しき迷い姫。私とワルツを」
跪いて右手を差し出す。
「…」
まさか王子自らが跪いてワルツに誘うとは…。
月の宮殿の王子様が、跪いてワルツに誘う。