ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.1 )
- 日時: 2010/03/23 22:25
- 名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: NqI69cgO)
story−00 【独白・屋上、青空の下にて】
「結局アンタは、何も分かっちゃいないんだよ」
———分かった口を利くな、若造が。
彼の喉を、圧迫する。病気かと思えるようなその白い喉は、今では私の手の中で規則的に動いていた。どくどく、どくどくと。
「そうして分かったフリをして、何度自分を騙してきた?」
———黙れ、この溝鼠が。
私が締め付けているその喉だけが、まるで他の生き物のように思えて。ついつい圧迫する力を詰めてしまう。
「アンタはさ、結局は、寂しかっただけだろう? ……俺と同じだ」
———やめてくれないか、同情するのは。
彼の腐った言葉だけが、私の脳内に反響しては、染み込んでゆく。
「全部、壊れてると。可笑しい、狂ってるってさ。まるで、そう、中二病みたいな考え方だ」
彼はそこで、一旦深く息を吸い込んだ。ひゅおお、と掠れた呼吸音と一緒に、私の手の中で白い喉が上下する。
なぜ、私はこの喉を絞めることが出来ないのだろうか?
一瞬だけで良い。一瞬だけでも自分の持てる最大限の力を使えば————彼の息の根を止めることなど、赤子の手をひねるよりも簡単なのに。
何故だ? 何故だ?
「自分以外は悪だと思い込んだり、自分だけは特別な人間なんだと思い込んだり———ね。なぁ、アンタはどう思ってる? 他人のこと、自分のこと」
「…………黙ってよ」
ねえ、もう、終わりにしよう? と。
私は彼に話を持ちかける。彼は濁った瞳を三日月のようにして、口元を歪ませた。
「……ああ、残念だなぁ」
———君とはもっと、早く会いたかったよ。例えば、幼馴染のシチュエーションとかさ。
彼はいつものようなおどけた言葉をつらつらと語ってみせた。そう、いつものような。
「そうだね」
私は優しく笑って、手中に収まった最後の希望に———力を込めた。
優しく、優しく。
だけど一息に逝けるような、そんな————……
—————真夏、午後、屋上。青空の下にて。
彼と私は、笑った。