ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 腐った彼は、笑わない。 ( No.14 )
- 日時: 2010/04/02 22:57
- 名前: 宵子 ◆OKoRSyKcvk (ID: SZdn/z4g)
story−08 【腐った痛みは忘れられない】
「……何で、俺の目が紅いか、っつったな」
薄暗い廃ビルの最上階で、志賀人はそう聞いた。その声は、今となってはもう意味を無くしている。なぜなら、リーダーであった彼は、顎の骨を粉砕されて横たわっているのだから。
それに気付いて話しているのか、はたまたそれさえ知らずに聞かせているのか。それは、無表情でぽつりと語り始める志賀人には、どうでも良さそうだった。
「俺さ、小さい時————つっても、9歳の時にな。拉致られたんだよ、この実験都市(シミュレーションシティ)にさ」
拉致された時のことを思い出しているのか、志賀人の煙草の箱を持つ手に、力が篭る。だが志賀人は、それにも気付かず、ただただ無意識の内に拳を握る力を強めていった。
「……それで、此処に来たんだけど、どーも俺を拉致した奴等がやけに変だったんだよ。白衣着てたり、薬品の臭いがしてたり。だから————大体自分がされることは予想がついた」
寂しそうな目をして、志賀人は自分の過去をぽつりぽつりと曝け出してゆく。それはまるで、舞台の上で一人独唱を行う———歌手のようにも見え。
志賀人は一旦そこで言葉を区切り、紫煙を吐き出した。煙はふよふよと空気中に溶け込みながら、透明と化して行く。
「されたよ、人体実験。苦しかった、痛かった、辛かった、寂しかった。あそこでは、俺はただの実験対象物。モルモットだったからな」
顔が、俯く。
志賀人は、無機質な声色で、自嘲気味に更に言葉を続ける。
「……脚に、金属を埋め込まれた。後、体中の筋肉が強くなるように、赤い色素が入った薬を、何回も、何十回も、何百回にも分けて投与されたんだ。麻酔もされずにな」
—————そのせいだ、俺の瞳が赤く、そしれ肉体がやけに強靭になってしまったのは。
結局、その実験は何らかによってストップされたのだが…………その止まったきっかけも、自分と同じような境遇を持った人々がどうなったのかは知らない。まぁ自分は、この都市で生活することにさせられたのだが。他の者はどうしたのだろうか、自分みたいに今も家族に会えずに、この腐りきった都市で屯しているのか。
「……動物の鳴き声なんて、アイツらにはただの雑音にしか聞こえなかったらしい。悲鳴をあげれば鎮痛剤を、それさえ効かなかったら頭にコードを通された」
—————痛い痛い痛い痛いっっ!!
—————やめろよやめろよおっ……!! いてぇよ……いてえよ……!!
幼い頃の、トラウマが蘇る。
何度叫んでも泣いても、何もかも許されなかった日々。痛みと白っぽい光のせいであやふやな所があるが、あの時の自分の感情だけは、今の志賀人に残っている。
—————それだけで、十分だ。
と、志賀人は思う。
なぜなら、それだけで、自分が奴等に復讐する理由が出来ているのだから。
「それでよ、最近になって……その、俺等に実験をしやがった会社、っていうかグループが明らかになったんだよ」
志賀人は、余裕を含んだ笑みで、そう告げた。そこで初めて、志賀人は笑顔を見せたのだ。屈託のない、しかしどこか寂しそうな笑顔を。
「その名前は————」
すうっ、と息を吸い込む。冷たい空気が、志賀人の火照った心の熱を冷ましてゆく。心地よいものが、志賀人の身体を支配した。
「—————帝見グループ」
静かだが、だが確かな答え。
悪張志賀人は————帝見グループへの、復讐を考えていた。