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Re: 少年アリス ( No.2 )
日時: 2010/03/26 17:49
名前: αкαηё (ID: ZVqxEqci)
参照: 【少年アリス】 俺は死ぬために剣を抜くんじゃない───!

★ 第1章 王の変動 ★


 「すまない、すまない……っ」

 俺は何度も倒れる姫君にに頭を下げた。

 何の罪もない彼女。

 そんな人を俺は殺した。

 この手で。

 だが、命令には絶対服従。

 「仕方がない」と彼女は思ってくれるのだろうか。

 いや、仕方がない訳がない。

 俺は、命令だとしても間違ったことをした。

 罪を犯した。

 許されないんだ。

 俺は涙を拭うと、何事もなかったかのように立ち上がった。

 リオレット国専属の飛行隊隊長がこんな姿を晒してはいけない。

 俺は、姫君にそっと花を添える。

 「この罪は、俺が背負う」

 俺はそれだけを言い残すと、槍を抜き、その場を去った。

 近くに我が隊の飛行艇を着かせてある。

 俺は飛行艇に戻っていった。

 「お帰りなさい、ヴィル隊長。あの……任務は?」

 戦闘服に身を包んだ部下——レイオットが俺に尋ねる。

 「完了した。問題ない」

 「完了ってことは……姫君は——」

 レイオットは悲しげな顔をする。

 羨ましいものだ。

 感情を顔に出せるのは。

 「姫君は死んだ。命令通りに動いたぞ、俺は」

 俺は自分の部屋へ戻ろうとした。

 すると、そんな俺の前をレイオットが塞ぐ。

 「隊長、本当にしたんですか? あの任務。酷いですよ」

 「何を寝ぼけたことを言っている。命令には絶対服従だ」

 「しかし、おかしいと思わないんですか? 王様、変ですよ」

 確かに最近の王はおかしかった。

 いつも冷静で、自分の国に得があることしかしない王。

 それなのに……姫君の暗殺を命令。

 それが、何の得になる? 

 しかし——俺は王に逆らえない。

 俺は王を疑ってはならない。

 俺は王を憎んではならない。

 俺と王の間に〝約束〟がある限り。

 「王を疑うな。兵士は命令にだけ従えば良い」

 「しかし——命令だからといって……残酷すぎますよ、隊長」

 「五月蠅い。俺を侮辱することは王への反逆だと思え!」

 俺は槍を強く握りしめた。

 しかし、レイオットの意志は変わらなかった。

 「変ですよ! 隊長だって、そう思うでしょう!?」

 此奴はまだ——王を侮辱するか。

 「これ以上言うな!」

 俺は槍をレイオットに突き出し、寸止めした。

 これ以上言うな。

 俺の本音だった。

 これ以上、俺と同じ思いを聞いてしまうと——

 〝約束〟を守れなくなる。

 すると、レイオットがハッと気がついた。

 俺の手が小刻みに震えているのを。

 俺の心が酷く傷ついているのを。

 「隊長——もしかして隊長も……?」

 くそ。

 また泣きそうだ。

 俺は後ろを向くと、レイオットに言った。

 「さぁ、帰るぞ。王の元へ」