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Re: 始まりは懺悔の願い ( No.22 )
日時: 2010/04/03 14:23
名前: 暗刻の導き手 ◆MCj.xXQAUE (ID: yL5wamFf)

第二章

 始まりの直前

 春奈は傍から見て憂鬱だと目に見えて分かるほど憂鬱そうな顔をして、帰路についていた。
 歩いていると、ふと目に留まるのが腕に張られた大きな絆創膏。そして、膝の絆創膏。
「……はあ……」
 数週間前から、春奈の体には生傷が絶えない。
 制服や教科書などが被害にあっていないことは喜ぶべきところだ。なにせ、いじめの一番ベターないやがらせの仕方だから。
「……はあ……」
 こんなにも憂鬱なのは、いじめを受けているからではない。まあ、それも敷き詰めてみれば理由なのだろうが。
「……若奈」
 理由の少女が頭に浮かび、口から独り言のように名前が漏れる。
 若奈。春奈の双子の姉で、性格が百八十度違う姉。
 自分をいじめている奴が姉の友人じゃなかったら、こんなに気落ちなんてしないのに……。
 姉がいじめに加担しているような、自分を嫌っているような気がして。もう何日もまともに口を利いていない。
「……こんな気持ちさえなけりゃ、あいつらをギッタンギタンにしてやるのに」
 剣道で全国大会に出場したこともある春奈にとって、それは簡単なことだ。
 けれど。
 姉への疑惑と、そんな疑惑を抱く自分への怒りが、頑なにその行為を拒絶している。
 そんなことを、ボンヤリ考えていた。
「春奈……」
 後ろから、か細い声が聞こえた。
 渡る途中だった横断歩道の途中で振り返る。
 そこには姉がいた。
 姉が何とも表現しがたい複雑な表情で、こちらに走ってくる。
 その時。
 周囲がざわめきに包まれる。
 こちらに慌てたように声が掛る。
「危ない!!」
 春奈は、ふと横を見て、そして。
 突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされた。
 居眠り運転のトラックに。姉——若奈の前で。
「は、春奈!」
 若奈の声を最後に。
 春奈の意識はぷつんと、呆気なく途切れた。