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Re: 始まりは懺悔の願い ( No.23 )
日時: 2010/04/04 14:57
名前: 暗刻の導き手 ◆MCj.xXQAUE (ID: PRmCvUEV)

 始まりの、数週間前

 周囲の人間がどう思っているかは、知っている。
 姉の評価が自分——春奈に総合的に及んでいないのも知っている。
 でも。けれど。
 春奈の中でそれは何の意味もなかった。
 周囲の人間が知らないだけで、姉——若奈は自分と同じように、否、自分以上に数値的な評価は高いと思う。
 思うじゃない。それは、絶対に近い確信。
「若奈っ!」
 五時間目の直前。掃除の後の五分間の休み時間。
 若奈のクラスの電気は消えていて、人もまばらだ。
「……春奈? どうしたの?」
 理科の教科書をすがる様に持っていた若奈がこちらを見る。
 驚いたように春奈を見る。
「歴史の教科書忘れちゃって。貸してくれない? 若奈のクラスも今日、歴史あったでしょ?」
 春奈の言葉の途中から、若奈は納得した表情になり、続いて呆れた表情に。
 そして、ほんの少し肩をすくめ、トレードマークである控えめなほほ笑みを浮かべる。性格がもろに出た、春奈が憧れるほほ笑みを、こちらに向ける。
「ちょっと待ってて……。あ、明音ちゃん……先に行ってていいよ。遅れちゃうかも」
 隣に立っている明音に若奈は言う。
 明音はチラリと、一瞬こちらに視線を投げ、小さく首を振る。
「平気。遅れないよ」
「そう……?」
 歴史の教科書をカバンから取り出し、春奈に差し出す。
 ちょっと困っている顔でこちらを見て。
「んと……。これからは忘れないようにね?」
 姉らしいことを言う。
「分かったって」
 そのいつもの言葉を聞き流し。
 やはり若奈は自分の自慢の姉だと確信できて。
 春奈は、心の中で確かに喜ぶ。