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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 始まりは懺悔の願い ( No.29 )
- 日時: 2010/04/17 16:22
- 名前: 暗刻の導き手 ◆MCj.xXQAUE (ID: PRmCvUEV)
春奈にとって姉、若奈は自慢であり、誇りだ。それは今も昔も変わらない。
そう、変わらない。
けれど。
それと同時に春奈は若奈に対して密かな、小さな負い目を感じていた。
誰にも吐き出していない、心の内に秘めている感情。若奈の評価を根本から間違えている周囲の人間には決して言えない、小さく、けれど確かな痛みを伴う感情。
初老に差し掛かりつつある男性教師の声を堂々と聞き流しながら。一番嫌いな教科、社会を聞き流しながら。
春奈が考えているのは、いつものように若奈のことだった。
社会の授業の時間はたいてい若奈のことを考えていた。否、考えてしまう。社会の授業は、こちらが完全に受け身だから。
「……だから嫌い」
なぜなら、感じてしまうから。
いつも、社会の授業時に感じてしまうから。
感じずにはいられないから。感じなければならないから。
自己中心的な、愚かな自分を感じずにはいられないから。
姉に……若奈に申し訳ないとは思うけど、結局謝りもせず、それどころかその感情を口に出すことも、周囲の評価を否定することもしていない。そんな自分を感じずにはいられないから。
完膚なきまでに自分が可愛い自分を感じずにはいられないから。
だから、嫌いだった。
社会の授業が。
そして。
他の誰でもない、自分自身が。
嫌いで嫌いで、仕方なかった。
それは、今も、昔も変わらない。
そしてきっと、これからも——。
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